「あのね。成瀬くん。せつな、お姉ちゃんの結婚式に出たいの」
「……えっ?」
「何かいい案、ないかな?」

 少女の懇願するような顔と、彼の困惑した視線が交わる。二人は互いにググッと眉間を寄せた。

「そ、そうだよな。プレゼントするために花を用意しているくらいだし。う〜ん。何かあるかな? ……シンプルに、蒼井に頼んでみるとか?」

 浩志の提案に、せつなは悲しそうに首を振る。

「何度か声をかけたことがあるけど、お姉ちゃんには聞こえないみたい」
「そう……なのか」

 浩志はせつなの答えに肩を落とす。それから、パチリと指を鳴らすと閃いたというように自信満々に人差し指を立てた。

「なぁ! こいちゃんは?」
「俊ちゃん?」
「そう。もしかしたら、こいちゃんならせつなの声が聞こえるんじゃないか?」
「そうかな?」

 彼自身には名案に思えたが、腑に落ちないというように首を傾げるせつなの態度で彼の勢いは急落する。

「……わかんないけどさ、でも、条件は河合と一緒だろ。せつなの存在を認識していたから、河合はせつなが見えた。だったら、俺らと話した事でこいちゃんだってせつなの存在に気がついているって事にならないか?」
「う〜ん。どうだろう? そういう事なのかな?」

 彼の力説にも、少女は曖昧に首を傾げたままだ。

「その説で言うなら、お姉ちゃんにせつなの存在を認識して貰えればいいって事になるよね?」
「あっ、そうか! じゃあ、蒼井に会いに行くか! 俺らがせつなの事、蒼井に伝えてやるよ」
「……う〜ん」

 なかなか笑顔を見せないせつなの真意が掴めず、浩志はため息を吐いた。

「せつなはさ、何が引っかかるんだ? 姉ちゃんに会いたいんだろ?」

 浩志の問いに、少女は悲しそうに眉尻を下げ項垂れた。

「会いたいよ。会いたいに決まってる。……けど……。お姉ちゃんね、やっと笑うようになったんだ。正人くんのおかげ。お姉ちゃん、たまに正人くんとこの花壇を見に来るの。でも、せつなの話をすると泣いちゃって……。成瀬くんたちがせつなの話をしてくれたとしても、やっぱりお姉ちゃんには見えなかったってなったら……」
「悲しませることになる?」

 辛そうに言葉を切ったせつなの後を心配そうに浩志は繋いだ。少女は口を噤んだままコクリと頷く。

「ん〜、そうだな。じゃあ、やっぱりまずはこいちゃんか」

 浩志が腕を組み思案顔をしていると、笑いを含んだ声が少し離れたところから聞こえてきた。

「な〜に、似合わない顔してんのよ?」