「いや、そういう事じゃない。ただ、今までよりも、良くしゃべるなと思っただけだから。悪い。気にするな」

 浩志の遠慮のない物言いに、少女は、少し顔を曇らせる。

「これまで、ともだちがいなかったから。ともだちと話せるのが嬉しくて、つい……。うるさかったよね。ごめん」

 シュンとしてしまった少女に、浩志は、失敗したという様に、頭をガシガシと掻きながら、懸命にその場の立て直しを試みる。

「うるさくなんかないから。大丈夫だ。好きなだけ喋ってくれ。聞いた事に答えてくれないより、よっぽど良い」
「……ごめん」

 浩志の言葉に、せつなは、さらに肩を落とした。

「成瀬くんが、これまでいっぱい話しかけてくれてたのに、あんまり話さなくてごめんね。正直、怪しんでたの。なんでこの人は、せつなに構うんだろうって。ホントは、成瀬くんと仲良くするのが怖かったんだ。仲良くなった後に、本当のせつなのことを知って、離れていくかもしれないと思うと……」

 俯き加減で話すせつなは、グズリと鼻を啜った。その音で、墓穴を掘った事に気がついた浩志はさらに焦る。

「な、泣くなよ。そんなん、俺、全然気にしてないし。今はもう友達だろ? それでいいんだよ」

 少女は、グズグズと鼻を鳴らしながらも、浩志の言葉に、ウンウンと頷きを繰り返す。

「俺も河合も、もう、せつなの友達だからな。なんでも言ってくれ。どれだけでも話してくれ。せつなは、……その……、ちょっと人とは違うのかも知れないけど、正直、俺には、今、目の前にいるせつなが、人間にしか見えないんだ。俺と違うところなんて、全然ない。だから、気味が悪いとか、怖いとかも思わない。そんなんで友達を辞めたりなんてしない。河合だってそうだ。あいつも、そんな事する奴じゃない。だから、安心しろ」

 機関銃のように言葉を投げてくる浩志を、いつしか、涙の溜まった目で見つめ、鼻を鳴らす事をやめていた少女は、一瞬の破顔の後に、またもや顔を曇らせた。

「ありがとう。ホントに何でも言っていいのかな?」

 ささやくように遠慮がちにそう言うせつなに向かって、彼は自身の胸を軽くトンと叩いて見せる。

「おう! なんでも聞いてやるぞ」
「あの、それじゃあ、……手伝って欲しいことがあるの!」

 少女は、浩志の目を見つめたまま、両手を胸の前で合わせ、お願いのポーズを可愛く決めている。その様子は、打算的だったが、年頃の男子には、100%の効果を発揮した。