「その人が言うには、心の一部がこの世界に取り残された時、媒体となるものが有れば、ココロノカケラは、この世に留まることが出来るんだって。せつなの場合は、コレ」

 せつなは、制服の胸ポケットから何かを取り出した。小さな握り拳を開くと、オモチャの指輪が、コロリと掌に乗っていた。指輪は、まるで自己主張をするかのように、キラリと光を放つ。

 指輪は、いつもせつなが持っていた物なので、浩志には既に見慣れた物になっていた。

「俺、それが何故だか、気になってたんだ。それ、やっぱり大事な物だったんだな」
「うん。せつなも、その人が教えてくれるまで、コレが媒体だなんて知らなかった。コレは、元々お姉ちゃんの物だったの。でも、あの日、少し早いけど退院祝いにって、お姉ちゃんがくれたんだ。お姉ちゃんは、コレを大切にしていたんだけど、せつなが気に入っちゃって、ずっと、お姉ちゃんにおねだりしてた物だったの。だから、もらった時は、すごく嬉しかった。絶対大切にしようって思ったの。だからかな、コレが媒体になったのは」

 せつなは、懐かしそうに、そして、大切そうに、指輪に視線を注ぐ。

「ところでさ、ココロノカケラだっけ? その事にやけに詳しい奴がいるんだな? 俺らもその人からもっと話を聞くことは出来ないかな? 俺、せつなのことちゃんと知りたい」

 せつなの目を見て浩志がキッパリと言うと、優も首を縦に振り、同意を示す。

「その人から、直接話を聞くことは、できない……かな」
「なんでだ? ソイツも幽体的な感じか?」

 せつなの答えに、浩志が眉を寄せると、せつなは、少し可笑しそうに口元を緩めて、首を横に振る。

「そうじゃないけど、まぁ、それに近いのかな」
「どう言うことだよ?」
「本人が言うには、その人は天使なんだって。だから、幽体のことに詳しいみたい。でも、天使であることは、内緒なんだって。だから、その人から話を聞くことは無理かな」
「俺たちには、見えないってことか?」

 残念そうに肩を落とす浩志に、せつなは、また首を振る。

「違うよ。天使って事を、みんなに明かせないだけ。だから、会えないだけで、実は、成瀬くんは、会ったことがあるんだよ」
「マジか!?」
「ウソ!?」

 せつなの答えに、浩志と優は、驚きのあまり、お互いに目と口を丸くした顔を見合わせた。