花壇の間を風が抜けていく。それは、ぬくぬくとした春先の暖かくて包み込むようなそれではなくて、冬に戻ってしまったかのような、鋭く刺すような冷たい風だった。

 浩志と優は、ぶるりと体を震わせる。せつなだけは、そんな風など気にしないとでも言わんばかりに、淡々と話し続ける。

「お姉ちゃんは止めたけど、せつなは、正人くんに花壇の手入れを教わりながら作業を続けたの。俊ちゃんは、園芸部じゃなかったけど、あの日はせつなたちに付き合ってくれたんだ。お姉ちゃんは始め、せつなが土を触る事を許さなかった。でも、せつなは、絶対怪我するような事はしないし、無理もしないからって、無理矢理お姉ちゃんにお願いして、渋々みんなと同じ作業をする事を許してもらったの」

 せつなは、昔を懐かしむように少し遠い目をしている。小石川から、その時の写真を見せられていた浩志と優には、その時の光景が目に浮かぶようだった。

「土を掘り起こしたり、種を撒いたり、そんな事、今までしたことがなかったから、もう楽しくて、夢中でやった。気がつくと、服は所々汚れていたけれど、それでも、怪我をする事もなく、無事に作業を終えることができたの。その時に、新聞部の人がちょうど校内新聞のネタを探しているから、写真を撮らせてほしいと来て……その時の写真が、さっき2人が見てたやつ」

 浩志と優は、せつなの話に無言で頷いた。

「お姉ちゃんには心配をかけてしまったけれど、特に怪我をする事も、体調が悪くなる事もなくて、最後は、みんなで楽しく笑って病院へ戻ったの。同級生より一足早く中学生を体験したみたいで、その日のせつなは、少し興奮しすぎたみたい。みんなが帰った後、せつなは、熱を出したの。そして……」

 せつなは、後悔と悔しさを噛み殺すように、唇を噛み締めた。

「そして、元々、他の人よりも抵抗力の弱いせつなは、その熱が原因で、さらに抵抗力を弱めてしまったの。確かに、どこにも怪我なんてしなかった。だから、ちょっと油断していた。まさか、空気中の微生物が原因で死ぬことになるなんて……」

 せつなの言葉に、ハッとして息を呑む浩志と優に向けて、少女は寂しそうな笑顔を見せた。しかし、次第に、その顔を歪ませ、声を震わせ始めた。

「病気を甘く見てた。自分の病弱さを分かっていなかった。完全にせつな自身が悪いの」