「……そういうことじゃなくて」
「じゃ、どうして?」

 優は小さな子を諭すように、やけに猫なで声でせつなの言葉を引き出す。

「お姉さんは、優しい人なんだと思う。突然現れたせつなのことを怖がらずにいてくれる。ともだちになろうって言ってくれる。でも……でも、どうして? どうしてそんな事がサラリと言えるの? だって、せつなは……」

 そこで言葉を切って俯いてしまったせつなの言葉を、優は引き継ぐ。

「人間じゃないのに? あなたがココロノカケラってやつだから?」

 優の言葉にせつなは顔を上げずに肯く。

「どうしてかな? それは自分でも分からない。今でも、幽霊に遭ったら逃げ出しちゃうだろうし、最初はせつなさんのことを怖いと思ったし。でも、寂しそうなせつなさんを見てたら、声かけなきゃって思ったんだよね」

 せつなは今にも泣き出しそうな顔で優を見上げた。

「せつなのこと、怖くない?」
「怖くないよ」

 優はせつなの瞳をしっかりと捉えてゆっくりと首を振る。

「ほんとに、せつなとともだちになってくれるの?」
「もちろん! ね、成瀬!」

 力強く肯いてから、優は勢いよく振り返り浩志を振り仰ぐ。

「お? おお!」

 突如として話を振られた彼は、ドギマギとしながらも右手の親指をしっかりと立てて答える。

「ふふ。ありがとう」

 せつなは瞳に溜まった涙の粒をスッと拭うと、まるでそこだけ春の盛りになったのかと思うほどに眩しい飛び切りの笑顔を見せた。三人はそれぞれに顔を見合わせる。そして、弾けたように声を上げて笑い合った。ひとしきり笑ったあと、ふと浩志が声を上げた。

「そういえばさ、結局、ココロノカケラって何なんだ?」
「ああ。実はせつなもよく分かってないんだけど、強く願った心の一部がその場に留まってるってことみたい」
「心の一部?」
「せつなの場合は、お姉ちゃんたちとお花の種まきをした時かな。泥だらけになったけどすごく楽しかった。お花が咲くところを早く見たいと思ったの。でも、せつなはそれからすぐ……」
「ああ……あの写真の時か」

 浩志は小石川から聞いた話を思い出した。確か、せつなはその三日後に亡くなったと聞いた。

「あれ? でも、あの写真は制服じゃなかったような……」
「確かにそうね」

 浩志が首を傾げながら言うと優もそれに同意の意を示す。

「実は、それもせつなの心残りだったことなんだよね。せつなは、ほんとならあの春に入学するはずだったの。新しい制服を用意して、入学が待ち遠しかった」