浩志の問いに、せつなは、少し寂しそうに微笑み、小さく頷いた。

「……一般的にはそういわれる存在だと思う」
「だと思う?」

 浩志は、少女が自身を幽体であると肯定したことよりも、曖昧に濁した言葉尻が気になった。

 そんな彼に、せつなは、寂しそうな横顔を見せながら、小さく頷く。

「周りの人たちに、せつなのことは、見えないから、幽霊と一緒。でも、正確には、今のせつなは、『ココロノカケラ』って言うんだって」

 せつなは、そう言いながら、しゃがむと、まだ生えたばかりの緑の絨毯を、愛おしそうに、そっと撫でる。地上に顔を出したばかりの青葉たちが嬉しそうに、フワリと揺れた。

「ココロノカケラ?」

 せつなの言葉を、浩志は、鸚鵡返しのように、口の中で転がした。

 そのまま、2人の間には、沈黙の幕が降り始める。

 沈黙をもって2人の会話が終わりかけた時、それを遮ったのは、2人から少し離れた場所に立ち尽くしていた優だった。

「私にも、せつなさんの姿、見えてるよ。それに、せつなさんには、足がある! せつなさんは、幽霊とは違うよ!」

 突然の優の力説に、せつなの顔は、珍しくポカンとしていて、少しマヌケな顔になっていた。

「えっと……」

 少女が返す言葉に詰まり、視線を彷徨わせているうちに、優は、それまで彼女を繋ぎ止めていた足枷が無くなったかのように、軽やかに駆けてくると、勢いよくせつなの隣にしゃがみ、ガシリとせつなの腕を取った。

「ほら! せつなさんに触れるもの。あなたは、幽霊なんかじゃない」

 そう言って、優は、ニッとせつなに笑いかける。

「あの……ありがとう」

 優に笑いかけられたせつなは、咄嗟に俯きつつ、それでも小さな声で、礼を述べる。その声は、どこか明るく、嬉しそうだった。

 そんなせつなの様子をニコニコと見ながら、優は自己紹介をした。

「私、河合優。成瀬の友達。で、これからは、せつなさんも友達」

 優の言葉に、恥ずかしそうに顔を伏せていた少女は、バッと音がするほどに、勢いよく顔を上げた。

「とも……だち……?」
「そう。ダメ?」

 目をパチクリとさせる少女に、優は、勢い良く言う。

「私、最初は、せつなさんのこと怖かった。全然得体が知れないし、小石川先生の話を聞いて、幽霊だって思って……それに、成瀬のことだって……」

 そこまで言って、優は、チラリと浩志へと視線を向ける。彼は、突然の優の行動に、呆然としているようだった。