どれだけ、そうして居ただろうか。

 沈黙を破ったのは、意外にも、せつなだった。

「なに?」

 無感情に、響くその声を聞いた優は、目を見開いたまま、何を言うでもなく、ただ口をパクパクと開閉している。

 浩志は、せつなの顔を見つめたまま、眉を顰め、真一文字に固く結んだ口を開こうとしない。

「俊ちゃんから、聞いたんでしょ?」

 再びせつなの声が中庭に響く。

「……俊……ちゃん?」

 ようやく重い口を開いた浩志は、聞きなれない呼び名に戸惑いながら、その名を口にした。

「小石川俊輔先生。あなたたちがさっきまで一緒にいた人」
「じゃあ、やっぱりお前は……」

 淡々と話すせつなの言葉の数々が、浩志の脳内を刺激する。

「お前って言わないでってば! せつなには、せつなって言う名前がちゃんとあるんだから!」

 なかなか感情を表さないせつなだが、唯一、自分の呼び名についてだけは、感情を剥き出しにする。

 そんないつも通りのやり取りに、つい可笑しさが込み上げてきた浩志は、ぷっと吹き出す。そして、まるで張り詰めていた糸が切れたかのように、勢いよくせつなの側へ駆け寄った。

「悪い。せつなは、せつなだよな」

 せつなの口癖を真似た浩志は、1人ケタケタと笑っている。

 そんな浩志の様子に、優の周りの張り詰めた空気も幾らかは緩んだが、それでもまだ、彼女の足元は、その場から離れる事なく地面に張り付いたままだった。

 優の様子をチラリと見やり、浩志は、少し離れた場所にいる優にも聞こえるように、ハッキリと声を出す。

「せつなは、もう知ってるみたいだけど、俺たちは、さっき、こいちゃん……小石川先生に、15年前のせつなと、こいちゃんと、それから、蒼井……先生の写真を見せてもらった。……その……せつなの事も……聞いた」
「そう」

 せつなは、浩志の話をサラリと聞き流す。せつなの目は、もう、花壇へと向けられていた。相変わらずの無表情からは、今、少女が何を思っているのかは汲み取れない。少女の気持ちを推し量れない浩志は、言葉を重ねることで、少しでも、少女の事を知りたいと思った。

「俺さ、あんま頭良くないから、何をどう言って良いのか、そう言うの、良く分からないんだ。だから、単刀直入に聞く」

 そう宣言をした浩志は、一旦言葉を切ると、大きく深呼吸をしてから、せつなの横顔をしっかりと見つめた。

「せつなは……その……幽霊なのか?」