生徒指導室を後にした浩志と優は、先程、小石川教諭から聞いた話と、現実がうまく噛み合わず、どこか、地に足つかぬ感覚のまま、ぼんやりと校内を歩いていた。
「ねえ。成瀬?」
張りのあるいつもの声はどこへ行ってしまったのか、力のない優の声は、どこかふわっとしていた。
そんな力無い声は、ぼんやりと自分の意識下に沈み込んでいる浩志の耳までは届かず、優の口から発した瞬間に空気中に散り、溶けてしまう。
2人の間には、お互いの声が届かない程の分厚い沈黙の壁があるようだった。
しばらく、沈黙のまま、どこへ行くともなしに歩いていた浩志たちは、中庭の見える渡り廊下へと来ていた。
廊下の壁にもたれ、どこを見るともなしに、ぼんやりとしている浩志の腕に、優はそっと手を当てた。
彼は、一瞬ビクリと肩を振るわせたが、それが優の手の温もりだと気がつくと、やがて、ぼんやりとしていた焦点も合ってきたようだった。
幾分か、浩志が表情を取り戻したのを見てとった優は、遠慮がちに彼に声をかける。
「ねえ。成瀬? 小石川先生の話が本当だとしたら、蒼井せつなさんという人は、もういないはずよね?」
「……ああ」
「でも、成瀬は、蒼井せつなさんに会ったのよね?」
「……ああ」
「しかも、15年前の姿のせつなさんに会っているのよね?」
浩志は、何かを考えるように、優と合わせていた視線をするりと外すと、中庭を見つめた。
「……ああ。こいちゃんの話だとそうなるな」
「それって……せつなさんは、幽……」
「っ!」
優の言葉を遮るようにして、浩志が鋭く息を呑む音がした。
彼の視線の先を辿るようにして、優も視線を中庭へと滑らせると、そこには、肩ほどまである髪を二つに分けて縛り、幾分か大きめの真新しい制服を着た少女の姿があった。少女は、花壇をじっと見つめている。
恐らく浩志も、少女の姿を目にしたのだろう。
優が口を開くより早く、彼は駆け出した。優も慌てて、浩志の後を追う。
中庭へ飛び出すと浩志は、鋭く声を発した。
「せつな!」
浩志の声に、花壇を見つめていた少女が振り向いた。浩志の背中越しに、少女の顔を見た優は、先程目にしたばかりの、白黒の少女の写真と瓜二つの顔に思わず、目を見開き、立ち止まった。
突然、息を切らして現れた浩志と優を、せつなは、無表情のまま見つめ続けている。
3人の周りだけが時が止まったかのように、誰一人動くものはいない。
「ねえ。成瀬?」
張りのあるいつもの声はどこへ行ってしまったのか、力のない優の声は、どこかふわっとしていた。
そんな力無い声は、ぼんやりと自分の意識下に沈み込んでいる浩志の耳までは届かず、優の口から発した瞬間に空気中に散り、溶けてしまう。
2人の間には、お互いの声が届かない程の分厚い沈黙の壁があるようだった。
しばらく、沈黙のまま、どこへ行くともなしに歩いていた浩志たちは、中庭の見える渡り廊下へと来ていた。
廊下の壁にもたれ、どこを見るともなしに、ぼんやりとしている浩志の腕に、優はそっと手を当てた。
彼は、一瞬ビクリと肩を振るわせたが、それが優の手の温もりだと気がつくと、やがて、ぼんやりとしていた焦点も合ってきたようだった。
幾分か、浩志が表情を取り戻したのを見てとった優は、遠慮がちに彼に声をかける。
「ねえ。成瀬? 小石川先生の話が本当だとしたら、蒼井せつなさんという人は、もういないはずよね?」
「……ああ」
「でも、成瀬は、蒼井せつなさんに会ったのよね?」
「……ああ」
「しかも、15年前の姿のせつなさんに会っているのよね?」
浩志は、何かを考えるように、優と合わせていた視線をするりと外すと、中庭を見つめた。
「……ああ。こいちゃんの話だとそうなるな」
「それって……せつなさんは、幽……」
「っ!」
優の言葉を遮るようにして、浩志が鋭く息を呑む音がした。
彼の視線の先を辿るようにして、優も視線を中庭へと滑らせると、そこには、肩ほどまである髪を二つに分けて縛り、幾分か大きめの真新しい制服を着た少女の姿があった。少女は、花壇をじっと見つめている。
恐らく浩志も、少女の姿を目にしたのだろう。
優が口を開くより早く、彼は駆け出した。優も慌てて、浩志の後を追う。
中庭へ飛び出すと浩志は、鋭く声を発した。
「せつな!」
浩志の声に、花壇を見つめていた少女が振り向いた。浩志の背中越しに、少女の顔を見た優は、先程目にしたばかりの、白黒の少女の写真と瓜二つの顔に思わず、目を見開き、立ち止まった。
突然、息を切らして現れた浩志と優を、せつなは、無表情のまま見つめ続けている。
3人の周りだけが時が止まったかのように、誰一人動くものはいない。