何処か浮ついた感じの優を他所に、浩志は、痺れを切らしたように、写真に写る二つ結びの少女の顔を、指でトントンと叩く。

「なぁ。こいちゃん。蒼井のカレシの話なんかいいからさ、コイツのこと教えてくれよ!」

 そんな浩志に、小石川は、渋い顔を一瞬見せる。彼は、出来ることならば、話題にしたくないという本心は、表に出さないものの、違う話題でのらりくらりと時間を引き延ばして、核心に触れるのを先延ばしにしていた。しかし、話さざるを得ないことも、また分かっては、いた。

「おい、成瀬。ちゃんと“先生”を付けろ。蒼井《《先生》》! いいな!」
「……おう」

 教師らしく、浩志に注意をしながら、彼の真実を知りたいという気持ちには、もう余裕は無いだろうと察した小石川は、話すしかないと腹を括った。

「俺と蒼井先生は、……実は、幼馴染なんだ」

 唐突に、自身の話を始めた小石川を、浩志と優は、黙って見つめる。多くの生徒たちから慕われる、彼のトーレドマークでもある潑剌とした笑顔は、今は封印され、何処か強ばった面持ちのまま、彼は話を続けた。

「家が近所でな、小さな頃から良く一緒に遊んでいた。俺と蒼井先生と、それから……この子」

 小石川が、二つ結びの少女を指す。小石川の言葉に、浩志がゴクリと生唾を飲み込んだ音が、微かに室内に響いた。

「この子も俺の幼馴染……永香(えいか)の……蒼井先生の3歳下の妹だ」
「……3つ下……じゃあ今は、こいちゃん達と同じくらいの大人……だよな……?」

 誰に聞くでもなく、浩志の口から漏れた落胆の色をした疑問に対して、小石川は静かに答えた。

「…………生きていればな」
「!! それって……」

 小石川の言葉に、浩志は目を見開く。

「……この子は……この写真を撮った3日後に、病気で亡くなったんだ」
「……そんな……まさか……」

 小石川は、未だはっきりと語らずにいたが、それでも、もしかしたらという、予想に愕然としている浩志の代わりに、優が声を上げた。

「小石川先生! この子の名前は?」

 優の問いに、小石川は、目を伏せ、静かに答えた。

「……蒼井……せつな」