浩志の言葉に、はしゃいでいた優も口を閉じて小石川を見る。小石川は、二人の視線から聞きたい事を察したようだったが、それには答えず、さらに写真の中の人物の説明を続けた。

「俺と肩を組んでいるこいつは、今井(いまい)正人(まさと)。俺の友達で……蒼井先生の恋人だ」
「きゃー! なにそれ!? つまり蒼井ちゃんは、学生の時からの恋人と結婚するってこと!? なにそれっ! なにそれっ! マジ憧れるんだけど!! ねぇ。成瀬。いいよね〜」

 女子中学生に色恋の話は禁物である。一度は収まったはずの優の興奮は、「恋人」というキーワードで大爆発した。本来の目的などサラリと忘れて、一人でキャッキャとはしゃいでいる。興奮気味の優の相手はせず、浩志は小石川を問い質した。

「こいちゃん! なぁ、こいつは? こいちゃん達と一緒に写ってるってことは、せつなじゃないのか?」

 小石川は一度目を伏せると優の方へ視線を送り、呆れたような声を出す。

「河合。言っておくが、この頃のコイツらは付き合ってないぞ。付き合い始めたのは、もっとずっと後だ。この頃のアイツらは、ただの部活仲間」
「え〜。そうなんですかぁ〜? ちょっと残念。いやでも、数年後に再会して結婚ってのも良いですね。うん。アリです! アリ!」

 優の思考は、完全にピンク色に染まっているようだった。何処か浮ついた感じの優を他所に、痺れを切らした浩志が、写真に写る二つ結びの少女の顔を指でトントンと叩く。

「なぁ。こいちゃん。蒼井のカレシの話なんかいいからさ、コイツのこと教えてくれよ!」

 小石川は渋い顔を一瞬見せる。彼は、出来ることならば話題にしたくないという本心を表には出さないものの、違う話題でのらりくらりと時間を引き延ばして、核心に触れるのを先延ばしにしていた。しかし、話さざるを得ないことも、また分かってはいた。

「おい、成瀬。ちゃんと“先生”を付けろ。蒼井《《先生》》! いいな!」
「……おう」

 教師らしく浩志に注意をしながら、真実を知りたいという彼の気持ちには、もう余裕は無いだろうと察した小石川は、話すしかないと腹を括った。

「俺と蒼井先生は、……実は幼馴染なんだ」

 唐突に自身の話を始めた小石川を、浩志と優は黙って見つめる。多くの生徒たちから慕われる、彼のトレードマークでもある潑剌とした笑顔は今は封印され、何処か強ばった面持ちのまま、彼は話を続けた。

「家が近所でな。小さい頃から良く一緒に遊んでいた。俺と蒼井先生と、それから……この子」