彼女は言葉を切ると、チラリと浩志の方へと視線を投げる。隣に座る彼はまだ信じられないのか、名簿を隅々まで確認していた。そんな浩志から視線を外し、小石川へと視線を戻すと優ははっきりと言う。

「成瀬が言っているように、偽名を名乗られたということも考えられますが、でも校庭で確認をしたとき、先生はせつなさんの名前に心当たりがあるようでした。そうでしょ?」

 小石川をしっかりと見つめて問う優の視線から逃れるように、小石川は腕を組み天井を仰ぎ見る。目を瞑り、眉を顰めて何かを考えるかのように沈黙を続けたが、やがて大きく息を吐き出し目を開けた。

「成瀬。これを見てくれ」

 小石川はスクラップブックを開き、あるページを示す。どうやら、新聞記事だと思っていたそれは、A4用紙一枚に書かれた校内新聞のようだった。開かれたページは、先ほど職員室で小石川が見ていた箇所。

 その記事の中央辺りに掲載されている写真には、花壇を背景にした男女四人の生徒の姿があった。モノクロ印刷のため顔ははっきりとは分からない。だが、他の三人よりも随分と背丈が低く、肩ほどまである髪を二つに分けて縛っている少女の姿に浩志は見覚えがあった。彼はその目を大きく見開く。

「こいちゃん! コレ! こいつだよ。せつなは!」

 浩志は興奮気味に写真を指さす。隣から記事を覗き見ていた優も、彼の声に思わず小石川を見た。視線を向けられた小石川は机に片肘をつき、浩志の反応にさらに難しい顔を見せる。人差し指で、自身のこめかみ辺りをトントンと叩いた。

「やっぱり、そうか……。でも、なんでだ? そんなことがあるのか?」

 独り言のように小石川は小さく呟く。

「こいちゃん! こいつ、せつなじゃないのか?」
「先生、この写真の人達は誰なんですか?」

 浩志と優は机の上に身を乗り出すようにして、困惑気味の小石川に詰め寄った。自身も混乱していたが、小石川はとりあえず二人を宥めすかす。

「まぁ、とりあえず、落ち着け。俺だって、何が何だか分からん」
「だって、こいちゃん! せつなの事は知らないって……」

 小石川の言葉など全く聞かない浩志は、混乱した気持ちのままに言葉を吐き出し続ける。そんな浩志の腕を掴み、隣に座る優が制した。

「ちょっと、成瀬。一旦落ち着こう。小石川先生は、知らないなんて言ってないでしょ! この学校に《《せつなさんはいない》》って言っただけ。先生は、せつなさんについて何か知ってるわ。ね、そうでしょ? 先生」