「まぁな〜。でも、せつなは物静かだけど、結構ガツンと言う感じだぞ。影が薄いとかじゃないと思う。いじめの対象になるかなぁ……やっぱ違うか」

 一人でいじめ説を一蹴する浩志に、優は解決しない疑問を投げかける。

「でもじゃあ、なんで誰もせつなさんのことを知らないんだろう? やっぱりなんか変じゃない?」

 二人は顔を見合わせ互いに眉を寄せる。しばらくの間、小さく唸り声を上げながら尤もらしい答えを導き出そうとしていたが、結局何も出てこなかった。浩志が先に根を上げる。

「あ〜! もう無理。考えたって分かるわけない。今からせつなのところに行こうぜ」
「え? 今から?」

 せつなについての考えを巡らせている間に、二人は教室へ辿り着いていた。自分の机に鞄を掛けようとしていた優は、浩志の突然の提案に驚き、鞄を取り落とす。慌てて鞄を拾い上げ机の上に置くと、優はツカツカと浩志のもとへ歩み寄った。

「もうすぐ先生が来るのにどうするのよ?」
「朝の連絡なんて聞かなくたって大したことねぇーよ」

 どうってことないという顔をする浩志に、優は目に見えて呆れた。

「あんたはいいかもしれないけど、呼び出された方はいい迷惑よ。あんたって、どうしてそうも短絡的なの!?」
「なっ!! 元はと言えば、お前がせつなの事が気になるって言い出したんだろ。だから俺は……」

 優と浩志が言い合いを始めても周りのクラスメイトは、どこ吹く風。また今日も痴話喧嘩を始めたよくらいの生暖かい視線を向けられるだけだった。そうこうするうちに、朝の予鈴が二人の声をかき消すように鳴り響く。

 各クラスで朝のST(ショートタイム)を終えると全校生徒が校庭へ集められ、今年度最後の全校集会という名の修了式が行われた。

 校長先生や生徒指導の先生が春休みの過ごし方について長くてつまらない話を長々としている間、浩志は背伸びをしたり、頭をふらふらと左右に振りながら生徒たちの中にせつなの姿を探した。

 中学と高校の合同で行われる全校集会は、中三生と高三生が既に登校していない事もありいつもの集会よりも人が少ない。各クラスがいつもよりも幾分余裕を持って整列している。しかしそうは言っても、視界の先はほとんど他の生徒の姿に遮られ、彼はせつなの姿を捉えられないでいた。

 集会が終わり生徒がバラバラと教室へ戻り始めると、浩志は慌てたように一年生の列へ駆けて行く。そんな浩志の後ろ姿を見た優は、友人たちの輪を離れるとゆっくりと彼の後を追った。