彼女は思わず眉を上げた。

「チャキチャキって何よ?」
「ん? チャキチャキはチャキチャキだよ。よく喋るっつーか、よく動くっつーか」
「はぁ? 何? あんた、私のこと(けな)してるわけ?」

 突然優から立ち上った怒りのオーラに気が付いた浩志は、慌てて彼女から半歩距離を取る。

「ちげーよ! 俺は、お前らとせつなじゃタイプが違うって……」

 浩志の瞬時の訂正に、優はフンと鼻を鳴らしツンと顔を背ける。そんな優の態度に、浩志は彼女には聞かれない様に小さくため息を吐いた。先日のことも思い出され、思春期女子の瞬間湯沸かし器の様な変化についついめんどくさいと思ってしまう。しかし、このままではまた話が中途半端に終わってしまうので、何とか話を先へ進めようと浩志は優に声をかける。

「俺はただ、タイプが違うから仲良くしてないんじゃないかって事が言いたかっただけ。お前を貶してるとかじゃないから機嫌直せって」

 優は浩志をジロリとひと睨みしてから、まるで怒りを吐き出すかの様にフゥと大きく息を吐き出した。

「まぁ、いいわ。せつなさんがどんな子なのか私は知らないから、タイプ云々はこの際置いておいておくとして……」

 まだ怒りを内に秘めているのか優の声のトーンは幾分低かったが、それでも彼女が口を開いた事で浩志はほっと胸を撫で下ろした。

「私が言いたいのは、仲良くないから知らないって事はないんじゃないかなってこと」
「ん? どう言う意味だ?」

 優の言わんとしている事がすぐには分からず、浩志は聞き返した。

「確かに、仲良くなかったらその人のことはよく分からないけれど、それでも同じ学年なら、廊下で見かけるとか体育とかの合同授業とか、友達の友達とか、誰かしら何らかの接点はあるもんじゃない?」
「そうか? まぁ、そうかもな」

 浩志は渋々といった感じで優の言葉に相槌を打った。

「それなのに、みんながみんな、せつなさんのことを知らないって言うなんて、ちょっと変じゃない? 名前くらい知っていても良さそうなものなのに」
「う〜ん。……じゃあ、あれか?」

 浩志の濁した物言いに優は視線で先を促す。

「あいつ、いじめられてたりとか? ……だから、誰も知らないとかいってるとか?」
「何? せつなさんって、いじめられそうな感じの子なの?」

 優は怒っていたことも忘れて彼に近づくと、声を潜めた。

「まぁ、呪いの花って言われちゃうくらいだしねぇ……あ、違うか。呪いの花を誰が作ってるのかみんなは知らないのよね」