優の言葉に浩志は呆れたようにため息を吐くと、教室へと向かって歩を進めた。

「だから、それはお前の勘違いだからだろ? たまたま同じ苗字ってだけのことで」

 浩志は自身の説が正しいと言わんばかりに優の仮説を一蹴するが、彼女は何故だか不満顔のままだった。

「成瀬の考えもそうかなとは思ったよ。でも、どうしても引っかかるの。苗字が同じってだけならまだしも、結婚の時期まで同じなんだよ。ただの妄想では無いような気がするのよね」

 優はどうやらその事が頭から離れなかったようだ。

「私ね、なんだか自分の考えが間違っているような気がしなくて、私なりにせつなさんのこと調べてみたの」
「調べてって……お前何したんだよ?」

 優の言葉に浩志は訝しそうに眉根を寄せて彼女の顔を見た。幾分険しい彼の顔色に、彼女は慌てて言葉を言い直す。

「ああ、えっと……調べてって言っても、部活の後輩にせつなさんの事を知っているかって聞いてみただけよ」

 優は自身の顔の前で手をヒラヒラと振って、大した事はしていないと彼の視線を散らす。

「それで?」

 彼女の動きに少しばかりの苛立ちを覚えつつも、浩志もせつなの事については殆ど何も知らないため、彼女の話に興味を引かれた。彼が自分の話を聞く姿勢を見せた事に優は安堵するとともに、先を話す事に小さな不安を覚える。

「それがね……」
「何だよ?」

 口籠る優に浩志は話の先を促した。優はたっぷりと間を置いたのち、不思議そうに口を開いた。

「誰もせつなさんの事を知らないって言うのよ」

 彼女の言葉の意味がよく分からないのか、浩志は小さく首を傾げる。

「どういう事だよ?」
「私にもよく分からない。せつなさんは、一年二組なのよね?」
「そうだと思うぞ」
「間違いない? 他の学年の子とか?」
「いや、いつもあの教室にいるし多分間違いないと思うけど……そう言われると、きちんと本人からクラスを聞いた事はないな」

 浩志は記憶を辿るように「う〜ん」と唸りながら腕を組み考え込んだ。そんな浩志の様子に、優は更に不思議そうにしつつ言葉を繋げる。

「せつなさんのことを聞いた後輩の中に一年二組の子はいなかったから、もしかしたら、本当にせつなさんのことを知らないだけなのかも知れないけど……」
「けど?」
「確認した子の誰もが知らないって言うの」
「う〜ん。まぁ、あいつ大人しそうだからな。スポーツやってるようなお前みたいなチャキチャキしたタイプとは関わってないんじゃないか?」