「ああ。なるほど。確かにそうだね」
彼女は自分から彼の家に押し掛けたことなど忘れたかのように眉間にシワを寄せ、納得と同情の入り混じった相槌を大きく打つ。思春期の彼らにとって、親の干渉は回避すべき事案でしかないようだった。
数分歩くと目指す公園にたどり着いた。そこは、小さなブランコと鉄棒、それから、木蔭に置かれたベンチ以外はなにも無いこじんまりとした公園だった。夕刻ということもあり、公園に人影はなくひっそりと静まり返っている。
「ここ」
それだけ言って、浩志は公園の小さな門を通り過ぎ、中へと入っていく。優も後からついていく。彼は木蔭のベンチへは向かわず、鉄棒の方へと歩を進めていた。
「ねぇ。ベンチに座らない?」
優が声を掛けたちょうどその時、彼は鉄棒に手をかけ、素早くクルリと逆上がりをして体を鉄棒の上へと持ち上げていた。そして、そのままそれを跨ぎ、器用に鉄棒の上に腰掛けた。
「ん〜、ベンチはまだちょっと寒いかな」
浩志は、Tシャツにハーフパンツという部屋着姿のまま外へ出てきていた。いくらか春めいてきたとはいえ、夕刻の木蔭は確かに肌寒いだろう。そのことに思い至った優はそれ以上は何も言わず、浩志が腰かける鉄棒へと歩み寄る。
そして支柱に背を預けるようにして寄りかかると、空を見上げた。浩志の自宅や今いる公園は小高い場所にあり、頭上を遮る物がないためかいつもよりも空が広かった。青よりもオレンジ色の面積が増え始めた空は何だか幻想的で、彼女はその部分だけを切り取りたくなり、両手でフレームの形を作るとそれを空に向け覗き込んでみた。空のグラデーションに見入っていると、頭上から浩志の声が降ってくる。
「それで、話ってなんだよ?」
「えっ? ああ。そうだった」
彼女は本来の目的を思い出すと、くるりと体の向きを変えて鉄棒にもたれかかる。
「今日、部活のときに先輩に聞いたんだけど……もしかしてと思って……」
「何が?」
話の意図がつかめず、浩志は彼女に話の先を促した。
「昨日、成瀬が待ち合わせをしていた子。名前は、蒼井せつなさんよね?」
「別に、待ち合わせってわけじゃないけど……まぁ、そう」
「その子、お姉さんの結婚式に花を送りたくて、今、準備しているのよね?」
「う〜ん。結婚式に送りたいのかどうかは知らないけど、結婚のお祝いにするつもりみたいだな」
優の質問の意図が全く読み取れないまま、浩志は彼女から投げられる質問に淡々と答える。
彼女は自分から彼の家に押し掛けたことなど忘れたかのように眉間にシワを寄せ、納得と同情の入り混じった相槌を大きく打つ。思春期の彼らにとって、親の干渉は回避すべき事案でしかないようだった。
数分歩くと目指す公園にたどり着いた。そこは、小さなブランコと鉄棒、それから、木蔭に置かれたベンチ以外はなにも無いこじんまりとした公園だった。夕刻ということもあり、公園に人影はなくひっそりと静まり返っている。
「ここ」
それだけ言って、浩志は公園の小さな門を通り過ぎ、中へと入っていく。優も後からついていく。彼は木蔭のベンチへは向かわず、鉄棒の方へと歩を進めていた。
「ねぇ。ベンチに座らない?」
優が声を掛けたちょうどその時、彼は鉄棒に手をかけ、素早くクルリと逆上がりをして体を鉄棒の上へと持ち上げていた。そして、そのままそれを跨ぎ、器用に鉄棒の上に腰掛けた。
「ん〜、ベンチはまだちょっと寒いかな」
浩志は、Tシャツにハーフパンツという部屋着姿のまま外へ出てきていた。いくらか春めいてきたとはいえ、夕刻の木蔭は確かに肌寒いだろう。そのことに思い至った優はそれ以上は何も言わず、浩志が腰かける鉄棒へと歩み寄る。
そして支柱に背を預けるようにして寄りかかると、空を見上げた。浩志の自宅や今いる公園は小高い場所にあり、頭上を遮る物がないためかいつもよりも空が広かった。青よりもオレンジ色の面積が増え始めた空は何だか幻想的で、彼女はその部分だけを切り取りたくなり、両手でフレームの形を作るとそれを空に向け覗き込んでみた。空のグラデーションに見入っていると、頭上から浩志の声が降ってくる。
「それで、話ってなんだよ?」
「えっ? ああ。そうだった」
彼女は本来の目的を思い出すと、くるりと体の向きを変えて鉄棒にもたれかかる。
「今日、部活のときに先輩に聞いたんだけど……もしかしてと思って……」
「何が?」
話の意図がつかめず、浩志は彼女に話の先を促した。
「昨日、成瀬が待ち合わせをしていた子。名前は、蒼井せつなさんよね?」
「別に、待ち合わせってわけじゃないけど……まぁ、そう」
「その子、お姉さんの結婚式に花を送りたくて、今、準備しているのよね?」
「う〜ん。結婚式に送りたいのかどうかは知らないけど、結婚のお祝いにするつもりみたいだな」
優の質問の意図が全く読み取れないまま、浩志は彼女から投げられる質問に淡々と答える。