「でも、じゃあ、なんでその子は、人の机に折り紙の花なんて置いて、クラスの人を脅かしてるの?」
「さあ? ってか、たぶん、あいつはそんなつもりないと思うけどなぁ……ただの置き忘れ? もしくは、そいつに渡したかったけど、直接渡せなくて机に置いたとか……」

 優の疑問に、浩志も首を傾げつつ、しかし、否定の言葉を口にする。まだ知り合ったばかりとはいえ、彼には、せつなという少女が、いたずらや、まして、陰湿なイジメをするようには思えなかった。

 どちらかといえば、人と関わるのが下手で、いつも、浩志とも距離を取っているように感じるのだ。

 だからこそ、今日は、もう少し近しくなろうと、優の寄り道計画にせつなも誘おうとしたのだが、せつなは教室に花を残したまま、姿はなかった。

 相変わらず、掴み所のない不思議な少女だと浩志が思考の海に浸かり、黙ってしまうと、しばらく、同じように考え事をしていた優が、またも、疑問を吐き出した。

「まぁ、よくわかんないけどさぁ、呪いの花じゃないってことよね?」
「おう! それだけは、絶対に違う!!」

 思考の中に浸かっていた浩志は、優の声で、意識を浮上させると、力強く肯いた。

 そんな浩志に、彼女は、安堵と不満が入り混じった声を向ける。

「その子がお姉さんの結婚のために、お花を贈りたいとして、でも、どうしてそれを成瀬が手伝ってるのよ? 何か手伝わなきゃいけない理由でもあるの?」
「どうしてって……どうしてだろうな。なんか、成り行き……でも、なんか気になるんだよなぁ。あいつ」

 浩志の、どこか心ここに在らずな雰囲気が優の胸を(ざわ)つかせる。しかし、そんな乙女の心の内など、中学男子に分かるはずもなく、浩志は、無関心に、「どうしてだろうか」と己との対話に没頭していた。

「ねぇ? 手伝ってるのって、成瀬だけ? 他にも誰かいるの?」
「ん? あぁ、俺だけ」
「そう……」

 優は、一瞬考えるような素振りを見せたが、すぐに意を決したように、一歩浩志の前に出て、彼の顔を覗き込む。

「ねぇ! 私もその子のこと手伝う!」
「はぁ?」
「何よ? 私が一緒だと何か不都合でもあるの?」
「い、いや、ないけど……俺だって勝手に手伝ってるだけだから、本当は迷惑だと思われてるかも知れないんだ」

 浩志は寂しさを滲ませるかのように、その顔に影を落とす。その影は、優の心にもすぐに浸食してきた。