翌日。学校が休みの浩志は自宅でゴロゴロとして過ごしていた。サッカー部に籍を置きながらも自称帰宅部を名乗っている浩志は、週末は暇を持て余し気味だった。

 夕刻、玄関のチャイムが来訪者を告げる。しばらくすると、浩志は母に呼ばれた。自室からノロノロと出ていくと、玄関には肩からスポーツバッグを下げたジャージ姿の優がいた。

「お、お前……どうして?」
「成瀬に話があって。ちょっといい?」

 急いで来たのだろうか。優は肩で大きく息をしていた。

「別にいいけど。……ちょっと待ってろ」

 そう言いおくと、浩志は玄関横の扉を開けて室内へと入っていく。

「母さん、ちょっと出かけてくるわ」

 そんな声が聞こえたかと思うと、浩志はお茶の入ったグラスを片手に優の前へと戻ってきた。

「ほい」

 差し出されたグラスに優が目をパチクリとさせていると、浩志は靴を履きながら何でもない事のようにサラリと口を開く。

「急いで来たんだろ。これ飲んでひと息つけよ」
「あ……ありがと」

 優は俯きがちに目の前のグラスを受け取った。彼の何気ない優しさの詰まったお茶は、彼女の喉だけでなく心の隅々までも潤してくれるようだった。グラスの中のお茶を一気に飲み干し小さく息をつくと、優は浩志に向かってペコリと頭を下げた。

「ごちそうさま。コレ、どうしよう?」

 空になったグラスを顔の高さまで持ち上げながら小首を傾げると、浩志はそれを無造作に受け取り、壁際の棚の上に置く。

「行こ」

 ぶっきらぼうに言い放ち、浩志は玄関のドアを押し開けた。優は慌ててその背中を追いかけつつ室内に向かって声をかける。

「お茶ごちそうさまでした〜。お邪魔しました〜」

 玄関を出ると、浩志がポケットに両手を突っ込み手持ち無沙汰を体現するように優を待っていた。

「どこに行くの?」

 優が声をかけると、浩志は優の少し先を歩き出す。

「近くに公園があるんだ。そこでいいか?」
「あぁ、うん。私はどこでも。別に成瀬の家でも良かったんだけど?」

 優が冗談めかしていうと、浩志は、ほとほと困り果てたように頭を掻きながら口籠る。

「……いや、家はちょっと」
「何なに〜? 部屋が汚いとか?」
「ちげーよ!」

 相変わらず浩志は短気に声を荒げた。

「女子なんか部屋に入れたら、めんどくせぇだろ」

 浩志はそっぽを向く。

「めんどくさい?」

 優は彼の言葉の意味するところが分からず首を傾げた。そんな彼女の仕草を見て、浩志はもどかしそうに口を窄めた。