浩志の問いに、優は、口をへの字に曲げて、涙を堪えるように眉を顰めながら、背後に聳える校舎をチラリと見やると、少しでも学校から遠ざかろうとするかのように、早足で歩き出した。

 浩志は、慌てて彼女の後を追う。

「なぁ? どう言う事だよ?」
「……初めは、私だって、信じてなかったよ」

 まだ蕾をつけ始めたばかりの桜並木の坂道を下り、校舎が見えなくなった頃、優は、ポツリポツリと話し始めた。

 彼女も人づてに噂話を耳にしただけなので、所々曖昧な部分があり、要領を得ない箇所もあったが、浩志は、黙って耳を傾けていた。

 折り紙の花が置かれるようになったのは、ここ1か月か、もう少し前くらいからで、初めは、誰かの置き忘れだろうと、誰も気にしていなかったらしい。

 そうは言っても、自分には必要のない、持ち主も分からない折り紙の作品など、大切に自宅まで持ち帰る人などおらず、ほとんどは、ゴミとして処分されたのだった。

 しかし、それ以降、腹痛や発熱、嘔吐、怪我、貴重品の紛失など、厄災とも言うべき事が、1年2組の生徒の間で頻発した。奇しくも、例の花が置かれた席の子たちの症状が重かったことから、最近では、生徒たちの間で、呪いの花と呼ばれているらしかった。

 そこまで聞いて、浩志は、堪らず声を上げる。

「でもよぉ、それって、単なる偶然じゃないのか? 腹痛、発熱、嘔吐って、そりゃ、ただの風邪だろ」
「え?」

 浩志の反論に、それまでビクビクとしながら話をしていた優は、ポカンとした顔で、浩志の事を見つめる。

「だって、時期的に、風邪とかインフルエンザとか流行った頃だっただろ」
「確かに……」
「それに、怪我とか、貴重品の紛失? そんなもん、ただの個人の不注意だろ」
「まぁ、そうかも……」
「仮に、百歩、いや、千歩譲って、それが呪いの花だったとして、厄災は1年2組で起きてるんだろ? 2年のお前がどうしてビビってんだよ?」
「あっ……!!」
「それに、見ただけで呪われるなんて話は、さっき出てこなかったけど?」

 淡々と、話の穴を突いていく浩志を見つめる優の目からは、いつの間にか、薄い水の膜はなくなり、代わりに、安堵と羞恥の色が、変わるがわる見え隠れしていた。

「も、もう。実物を見て、ちょっとテンパっちゃっただけよ。そんな、めちゃくちゃ信じてたとかじゃないんだから!」

 優が、むきになって否定する姿を、浩志は、横目で見て、ニヤリとする。