しかし、優は、浩志の言葉をかき消すように、興奮気味に、早口で捲し立てる。

「ねぇ! ヤバイよ! 呪いの花! 呪いの花、見つけちゃったよ!」
「はぁ? 違うって」

(せつなのやつ、また、不用意に誰かの机に花を置いたまま、何処かへ行ったんだな。そんなことするから、変な噂が経つのに……)

 浩志は、人知れずため息をついた。

 その隣で、優は、焦りを滲ませている。

「ね、ねぇ。成瀬? もう帰ろうよ?」
「ん? いや〜、でも、もう少し。もう少ししたら、あいつ戻ってくるかも知れないし……って、オイ」

 優の放つ緊迫感に気が付かず、のんびりと答える浩志の手首を、優はガッチリと掴むと、ものすごい力で引っ張りながら、昇降口へと向かって歩き出した。

「荷物無かったし、きっと、その子も帰ったんだよ。約束してたわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
「じゃ、もういいでしょ! 早く……早く帰ろ!」
「オイ、ちょっと待てって」

 浩志は、優の手を振りほどこうと、拳を握り、腕に力を入れた。すると、腕先に優が震えていることを感じて、思わず慌てる。

「オ、オイ、どうした?……なんで震えて……?」
「いいから、早く帰ろ……」
「お、おう」

 下駄箱に着いても、優は浩志の腕を離さず、浩志は、急かされる様に靴を履き替えると、優に引きずられるようにして、校舎を後にした。

 正門を潜る時、浩志が、後ろ髪を引かれるかのように、チラリと校舎へと視線を向けると、校舎の壁面に掲げられた、校内スローガンの大きな幕が、風を受けて、はたはたと心地良さそうにはためいていた。

(だいぶ暖かくなったなぁ。今日は、せつなと花壇の確認もするつもりだったのになぁ)

 そんな事を考えていると、浩志を力任せに引っ張っていた優の手が不意に離れた。優は立ち止まると、肩を上下に揺らしながら、大きな呼吸を繰り返している。

 浩志は、優の呼吸が整うのを待って、声をかけた。

「なぁ、どうしたんだよ。突然」

 優は、怯えたように瞳を揺らしながら、自身を抱きしめるようにして、身体をギュッと縮めながら、口を開く。

「だって。呪いの花が本当にあったんだもん。もしかしたら、私たちも呪われちゃうかも……」

 そう言って、小さく震える優に、浩志は、不思議そうな顔をする。

「なぁ? その呪いの花ってなんだよ? 前は、そんなこと言ってなかっただろ? 毎朝、机に、心当たりのない折り紙の花が置いてあるって言ってただけじゃないか」