折り紙の花が置かれるようになったのは、ここ一ヶ月、もう少し前くらいから。初めは、誰かの置き忘れだろうと誰も気にしていなかったらしい。

 そうは言っても、自分には必要のない持ち主も分からない折り紙の作品など、大切に自宅まで持ち帰る人などおらず、ほとんどはゴミとして処分されたのだった。

 しかしそれ以降、腹痛や発熱、嘔吐、怪我、貴重品の紛失など厄災とも言うべき事が一年二組の生徒の間で頻発した。奇しくも、例の花が置かれた席の子たちの症状が重かったことから、最近では、生徒たちの間で呪いの花と呼ばれているらしかった。

 そこまで聞いて、浩志は堪らず声を上げる。

「でもよぉ、それって単なる偶然じゃないのか? 腹痛、発熱、嘔吐って、そりゃ、ただの風邪だろ」
「え?」

 浩志の反論に、それまでビクビクとしながら話をしていた優は、ポカンとした顔で浩志の事を見つめる。

「だって、時期的に風邪とかインフルエンザとか流行った頃だっただろ」
「確かに」
「怪我とか貴重品の紛失? そんなもん、ただの個人の不注意だろ」
「まぁ、そうかも……」
「仮に、百歩、いや千歩譲って、それが呪いの花だったとして、厄災は一年二組で起きてるんだろ? 二年のお前がどうしてビビってんだよ?」
「あっ!!」
「それに、見ただけで呪われるなんて話はさっき出てこなかったけど?」

 淡々と話の穴を突いていく浩志を見つめる優の目からは、いつの間にか薄い水の膜はなくなり、代わりに安堵と羞恥の色が変わるがわる見え隠れしていた。

「も、もう。実物を見て、ちょっとテンパっちゃっただけよ。そんな、めちゃくちゃ信じてたとかじゃないんだから!」

 優がむきになって否定する姿を、浩志は横目で見てニヤリとする。

「そうかそうか。怖かったよなぁ〜。でも、大丈夫だぞ〜。アレは、呪いの花なんかじゃないから。俺が一〇〇パー保証する!」

 まるで小さな子供にでも言い聞かせるように、揶揄いを含んだ彼の口調と意味の分からない強気な言葉に、優はつい語調を強めてしまう。

「ハァ? 成瀬なんかに保証されても全然意味ないんですけど〜?」

 浩志は自分から揶揄っておきながら、彼女のそんな可愛げない態度に幾分腹立たしさを滲ませて反論する。

「なんで俺の保証じゃ意味ないんだよ! アレは俺が作ってるんだぞ!! 作ってる本人が呪いじゃないって言ってんだから、それで十分だろっ!!」

 浩志の勢い余った言葉をしっかりと耳にした優は、思わず眉を顰める。