「う〜ん。待ち合わせっていうか……ちょっとな」

 浩志が適当に答えたのが良くなかったのだろう。一瞬だけ彼女の周りの空気がピリついた。しかし、彼女は別に何も気にしていない風を装って彼を茶化す。

「あ〜、もしかして後輩女子からの呼び出しだったりする? 私が一緒に行ったらマズくない?」
「ば! ……っか。そんなんじゃないわ!」

 彼が思わず赤くなりながら大きな声で否定すると、優は耳を塞ぎながら少し嬉しそうに聞き流す。

「はいはい。違うのね。もう、いちいち大きな声出さなくていいから」
「……お前が、変なこと言うからだろう」

 浩志は赤くなってしまったことを誤魔化すように唇を尖らせ、鼻に皺を寄せる。

「まぁ、後輩女子ってのは合ってるけど」
「え゛っ?」

 彼のボソッと付け加えた答えに、今度は優が大きな声を出してしまう。

「なんだよ? 言っとくけど、別にお前の思ってるような事じゃないぞ?」
「……そう……なの?」
「ああ。全然そんなんじゃない。……けど」
「けど?」
「そいつも誘ってもいいかな?」
「えっ?」
「アイス」
「……」

 二人で出掛けるのだとばかり思っていた優は、驚きのあまり声が出ない。そんな優には気が付かず、浩志は到着した一年二組の教室の扉から教室内を覗き込む。窓からの光がきらりと煌めいた。それを受けて浩志は一瞬瞬きをする。それからもう一度室内を覗いてみた。誰もいなかった。

「おかしいなぁ」
「いないの?」

 浩志の呟きに、優は安堵の色を滲ませながら彼の隣に立ち、同じように室内を見回す。

「約束してたんじゃないの?」
「約束って言うか……」

 浩志は扉から顔を離すとクルリと背を向けて、扉に背中を預けた。そんな彼を視界に捉えつつも、まだ室内を眺めていた優だったが、突然短い声を上げた。

「あっ!」
「なんだ? 居たか?」

 浩志ののんびりとした声を優は被せ気味に否定する。

「違う! ねぇ、あれ見て。机に何か置いてあるよ! あれって、前に言ってた折り紙の花じゃない?」
「ああ、アレは……」

 浩志には優の言っている物が何か分かっていたので、説明をしようと口を開いた。しかし、優は浩志の言葉をかき消すように興奮気味に捲し立てる。

「ねぇ! 呪いの花! 呪いの花見つけちゃったよ!」
「はぁ? 違うって」

(せつなのやつ、また不用意に誰かの机に花を置いたまま何処かへ行ったんだな。そんなことするから変な噂がたつのに)

 浩志は人知れずため息をついた。その隣では、優が焦りを滲ませている。