せつなとの夕方の作業を始めて、今日で3日目。

 今日もこれから、1年2組の教室へと向かうべく、浩志は、校舎内が静まるのを、自席で頬杖を突きつつ、特に何をするでもなく、ボーッとしながら待っている。

 なぜ、すぐに向かわないのか。理由は、至極簡単なことだ。誰かに、女子と2人でいるところを見られてしまうかもしれないと警戒してのことだった。

 もしも、校内で噂にでもなってしまったらと考えると、思春期真っ只中の浩志は、恥ずかしすぎて、自分が爆発してしまうのではないかと思うほどに、耐えられないことだった。

 そうは言っても、自身の周りには、クラスメイトの優という女子がいるではないかと、浩志は自問自答する。

 優は、クラスメイトであり、友人であると自身が認識しているので、2人で話していることは、別段おかしなことではないだろう。周囲の友人達も、浩志と優の仲を、変に囃し立てる者はいない。

 だがしかし、彼には優の他に、特に親しくしている女子の友人はおらず、浩志の中で、優は、やはり特別な存在であることは確かであった。

 もし仮に、2人の中を囃し立てる声を耳にしてしまったら、自分は一体どの様な反応をするのだろうか。

(たぶん、俺は、あいつと、これまでの様には接しなくなるだろうな……)

 自身の出した答えに何故かモヤモヤとした気持ちになった浩志は、その正体を探るべく、さらに深く、自身と向き合う様に、自答を繰り返す。

(まぁ、囃し立てられる相手が、あいつじゃなくたって、例えば、せつなが相手だったとしても、騒がれるのが煩わしいから、俺はたぶん、せつなと距離を置くだろう。現に、こうして、誰かに見られない様に様子見をしているわけだし。相手がせつなだろうが、優だろうが、それはたぶん変わらない。だけど……)

 そこまで考えた時、浩志の脳裏に、優の笑顔が浮かび、彼は、無意識に、心拍数を上げる。

 その時、教室の扉を勢い良く開けて、彼の心拍数を早めた張本人が入ってきた。

 優は、楽しげに浩志の席へと足を向けつつ、口を開く。

「成瀬〜。あんた、何でいつもいつも、用事もないのに、教室に遅くまでいるのよ?」
「なんでも良いだろ。お前こそ、部活どうしたんだよ?」

 浩志は、突然の優の登場に、バクバクと高鳴る心音を聞かれまいと、無意識に大きな声を出して、プイッと窓の外へと視線を向ける。