入り口の雑誌コーナーを通り過ぎると、天井の高い、閲覧スペースが広がっていた。広々とした閲覧スペースは、勿体ないことに、男子学生が一人使用しているだけだった。

 そして、閲覧スペースの脇は、中二階の造りになっており、1階部分にも2階部分にも、いくつもの書架が収まっていた。

「すっげ……」

 浩志は、小学生の時に、数回学校の図書室へ足を運んだことがあったが、全くの規模の違いに、口をあんぐりと開けて、上を見上げるばかりだった。

「うふふ。ゆっくりしていってね。もし、借りたい本や、分からないことがあれば、私に声をかけて」

 司書はそういうと、入り口横にある小部屋へと入っていった。

 一人取り残された浩志は、これからどうしようかと考えを巡らす。

 せつなと会って話がしたいが、この暖かな場所から、木枯らしが吹き荒ぶあの場所へまた戻るのには、勇気と気合が必要だった。

 ふと、書架とは反対側に設置されている窓に目が留まる。もしかしてと思い、窓に歩み寄ると、彼は、閉められているカーテンをそっと開けてみた。

 彼の予想通り、窓からは、中庭を見ることができた。

 彼は、小さくガッツポーズをする。すぐに、ここで、せつなを待つことに決めた。

 そして、しばらくそのまま窓の外を見ていた彼だったが、いくら待っても、せつなは現れない。手持ち無沙汰で、待機するだけに飽きてしまった浩志は、少し書架の間を歩いてみることにした。

 しかし、読書など全くしない浩志にとっては、背表紙のたくさん詰まった書架は、ただの迷路の壁のように感じられる。

(図書館って、どうしてこんなに暇なんだろう)

 そんなことを思いつつ、ブラブラと書架の間を歩いていると、1冊の背表紙が目に留まった。

 それは、花の百科事典だった。

 浩志は、何気なくその本を棚から抜き出し、待機場所と決めた窓辺の席へと戻る。

 外の様子を気にしつつ、パラパラとページを捲ると、探していた花の項目を見つけた。

 「スターチス」のページには、花の写真とともに、花の説明や、開花時期、花言葉などが載っていた。スターチスの花言葉は「変わらぬ心」、「変わらない誓い」、「途絶えぬ記憶」らしい。

(まるで、変わらないことを望んでいるような、縛られる言葉だな)

 浩志は、花言葉の並びをぼんやりと眺めつつ、この花言葉に不快感を感じてしまった。