女性は、浩志のように、コートのようなものは羽織っておらず、カーディガンの下からのぞく、赤いエプロンが目を引いた。
「あ、えっと、すみません。もう、帰ります」
その女性は、生徒と見間違いそうなほど幼顔だが、女性の格好から、教員だろうと判断した浩志は、校内をフラフラとしている事を咎められたと思い、足早に、その場を立ち去ろうとした。
「待って。帰らなくてもいいのよ。ごめんなさい。突然、声をかけてしまって」
女性は、浩志を呼び止めつつ、頭を下げた。
「ただね。寒くないかなぁと思っただけなの」
女性の言葉に、彼は、思わず身ぶるいで答えてしまう。
「ふふ。もしよかったら、ちょっとあそこで、暖まっていかない?」
中庭の一角を女性が指さす。その先には、カントリーログハウス風の建物があった。
浩志は、その建物に近づいたことがなかった。生徒たちの間では「開かずの館」と呼ばれていたその場所は、多分、花壇を手入れする物などが保管されているのだろうと漠然と思っていたし、興味もなかったので、彼の中では、完全に風景の一部となっていた場所だった。
「あ、あそこ……ですか?」
「うん。そう。どうぞ」
赤いエプロンの女性は、強引に浩志を誘うと、建物へと一人先に向かい、扉を開け、浩志を手招きする。
教員に逆らうわけにもいかず、浩志は渋々女性の誘いに従った。
入り口の扉を潜ると、彼は、ポカンとした表情で足を止める。
農具庫だと思っていたその場所は、天窓から夕日が幾筋もの光となって差し込んでいて、とても明るく、そして暖かかった。
入口を入ってすぐの場所には、雑誌がいくつも置いてあり、ソファもある。ゆっくり雑誌を見るには、もってこいの場所だった。
「ここって……図書館?」
思わず、浩志の口から、疑問の言葉が溢れる。それを、女性は、ふんわりとした笑みで受け止めた。
「そうよ」
農具庫だと思っていた建物は、校舎とは別に独立した図書館だった。
そういえば今年度から専任司書が常駐し、常に開館されるようになったと4月の始め頃に全校集会で聞いたような気がした。
彼は、自分には関係ないことだと、適当に聞き流し、やがて記憶の端に追いやり、忘れ去っていた情報を引っ張り出す。
「初めて来た」
浩志にとって、図書館は、校内にある施設の中で、一番縁遠い場所だった。事実、中学2年が間もなく終わろうとしているこの時まで、図書館の場所を知らなくても、何も不自由していなかったのだ。
「あ、えっと、すみません。もう、帰ります」
その女性は、生徒と見間違いそうなほど幼顔だが、女性の格好から、教員だろうと判断した浩志は、校内をフラフラとしている事を咎められたと思い、足早に、その場を立ち去ろうとした。
「待って。帰らなくてもいいのよ。ごめんなさい。突然、声をかけてしまって」
女性は、浩志を呼び止めつつ、頭を下げた。
「ただね。寒くないかなぁと思っただけなの」
女性の言葉に、彼は、思わず身ぶるいで答えてしまう。
「ふふ。もしよかったら、ちょっとあそこで、暖まっていかない?」
中庭の一角を女性が指さす。その先には、カントリーログハウス風の建物があった。
浩志は、その建物に近づいたことがなかった。生徒たちの間では「開かずの館」と呼ばれていたその場所は、多分、花壇を手入れする物などが保管されているのだろうと漠然と思っていたし、興味もなかったので、彼の中では、完全に風景の一部となっていた場所だった。
「あ、あそこ……ですか?」
「うん。そう。どうぞ」
赤いエプロンの女性は、強引に浩志を誘うと、建物へと一人先に向かい、扉を開け、浩志を手招きする。
教員に逆らうわけにもいかず、浩志は渋々女性の誘いに従った。
入り口の扉を潜ると、彼は、ポカンとした表情で足を止める。
農具庫だと思っていたその場所は、天窓から夕日が幾筋もの光となって差し込んでいて、とても明るく、そして暖かかった。
入口を入ってすぐの場所には、雑誌がいくつも置いてあり、ソファもある。ゆっくり雑誌を見るには、もってこいの場所だった。
「ここって……図書館?」
思わず、浩志の口から、疑問の言葉が溢れる。それを、女性は、ふんわりとした笑みで受け止めた。
「そうよ」
農具庫だと思っていた建物は、校舎とは別に独立した図書館だった。
そういえば今年度から専任司書が常駐し、常に開館されるようになったと4月の始め頃に全校集会で聞いたような気がした。
彼は、自分には関係ないことだと、適当に聞き流し、やがて記憶の端に追いやり、忘れ去っていた情報を引っ張り出す。
「初めて来た」
浩志にとって、図書館は、校内にある施設の中で、一番縁遠い場所だった。事実、中学2年が間もなく終わろうとしているこの時まで、図書館の場所を知らなくても、何も不自由していなかったのだ。