浩志は、中庭の例の花壇の前にいた。

 優から、折り紙の花の話を聞いてから、数日の間、彼は、毎日のように、夕刻になると教室の窓から中庭を見下ろしていた。

 そこには必ず、真新しい大きめの制服を着た小さな後ろ姿があった。

 その後ろ姿を目にする度に、浩志の中で、今回の件とせつなが、何が関係しているのではないかと思えてならなかった。

 確信はどこにもなかった。

 だが、何故だかそう思えて、日が経つにつれ、その思いは、浩志の中から消えなくなっていった。

 そのため、彼は、直接少女に確かめてみようと思い、この場所で、せつなが来るのを待ち構えているのである。

 しかし、今日に限ってせつなの姿は花壇の前にない。

 彼は、その場で足踏みをして、何とか体を温めようとするけれど、木枯らしの吹く中、そんなことでは、体は温まらず、体はどんどんと冷えていく。

(早く来てくれよ……)

 腕を組み、肩を窄めて縮こまりながら、足踏みを続けて、何とか気を紛らわせようと、何気なく花壇へ目をやる。

 すると、花壇の様子が以前と少し違うような気がした。

 何が違うのだろうかと、寒さ対策の足踏みをやめて、目を(すが)めて花壇をじっくりと見やる。

 そして、以前との違いに気がついた彼は、ハッとした。

 花壇の中には、土を押し上げるようにして、茶色の中に、緑色の小さなものがいくつもあった。

(咲いたっ!?)

 浩志は、花壇の淵にしゃがみ込むと、息を殺して、土をじっくりと見る。

 見間違いではなく、確かに土の中から、緑色のものが押し出ようとする膨らみが、花壇のあちこちに見受けられた。

 状況を正確に表すとすれば、発芽であり、決して、開花した訳ではないので、彼が瞬時に思ったことは、間違いではあるが、今の彼には、そんなことは、どうでもいいことだった。

 浩志は、バッと立ち上がると、慌ててキョロキョロと周囲を見回し始めた。

 この花壇の変化をあの少女に早く伝えたい。

 そう思うのに、せつなはこんな時に限って、一向に姿を表さずにいた。

 ソワソワとしながら、浩志は、中庭の中をくまなく視線を動かして、せつなの影を捉えようとしていた。

 そんな彼の背後から、不意に声が掛けられる。

「あなた、こんなところにいて、寒くない?」

 背後からの声に素早く振り向くと、そこには、木枯らしに吹かれ、大きめのウェーブのかかった髪を、肩口で揺らす女性がいた。