浩志の少し熱を含んだ視線には気づかず、優は話を続けた。

「違うの。そう言うのじゃなくて、折り紙で作られた一輪の花なんだって」

 彼女の答えに緊迫感はなく、彼は拍子抜けしてしまった。

「何だよ。それじゃあ、そんなに大騒ぎすることでもないだろ。誰かの置き忘れとかじゃないのか?」
「それが、そんなことがこれまでに何度もあったみたいなの。だから、置き忘れとかではなさそうだって」
「どう言う事だよ?」
「なんかね。いつも朝学校に来ると、誰か一人の机にだけ、それが置かれているらしいの」
「毎日? 特定の誰かとかじゃなくて、色んな奴に? 誰かがその折り紙の花を配ってるって事か?」
「う〜ん。わかんない。でも、そう言うことがここ最近毎日起きているって話だよ」
「ふ〜ん」

 浩志は唇を尖らせ天を仰いだ。

(そいつは何がしたいんだろう。新手の嫌がらせか? それとも、趣味の披露か? どちらにしても、不気味というか、気持ちが悪い。俺がされたらなんかイヤだな)

 そんな事を考えて、念のために優に確認を取る。

「うちのクラスではないよな? そんな話、聞いたことないし」
「あ、うん。うちのクラスじゃなくて……絶対誰にも言わないでよ」

 優は唇の前で人差し指を立てる。そして、少しだけ上目遣いをして浩志を見上げた。その仕草にまたしても彼はドギマギとしてしまう。彼女のこういう何気ない仕草が、最近彼の心をかき乱す。だが、それを浩志は認めたくなかったし、優にも悟られたくない。だから、浩志は必要以上に平静を装いながら、肯いた。

「あ、ああ。言わねぇーよ」
「あのね、それ、小石川先生のクラスで起きてるらしいの」
「こいちゃんのクラス……一年二組か」

 そう聞いて浩志の心の中に真っ先に浮かんだのは、最近夕刻時に目にしている少女の背中だった。