浩志は、せつなが執着している花壇を指さしつつ、上級生の答えを待つ。そんな浩志に、上級生は、楽しそうに眉尻を下げる。

「なになに? もしかして、園芸に興味あったりする? 何か育てたい感じ?」
「ああ、いえ、そうじゃなくて……」
「違うの? 残念。新入部員ゲットかと思ったのになぁ。あ、でも、きみたち、中等部? 中等部でも、入部ってできたかなぁ」

 浩志の制服についている、学年カラー別の校章にチラリと視線を送りながら、上級生は、一人違う方向へと話の水を向ける。入部希望ではないと知りつつも話を進めるあたり、強引に園芸部へと勧誘するつもりだろうか。

 浩志には、そんなつもりは毛頭ないので、早々に話の方向を修正する。

「あの、ここに何かの種が撒いてあるって聞いて、その花を見に来ているんですけど……?」
「ああ。そこ? そこはねぇ、え~と、何だっけ?」

 上級生は、浩志の話の方向転換にきちんと付いてきたが、浩志の求める答えは直ぐには出てこないようだ。上目遣いで、しばし逡巡をしている素振りを見せる。そのあと、ようやく破顔した。答えを思い出したのだろう。

「そこはね、スターチスって花が咲くはずよ。紫の小さい花。以前、園芸部の先輩が育ててたみたいなの。スターチスは、本来多年草なんだけどね。多年草の割に、短命で、最近では、一年草って言って、毎年種まきをするような花として扱われているの。だけど、先生の話を聞く限りでは、ここは、誰も手入れしていないはずなのに、毎年きちんと花が咲いているみたいなのよ。まぁ、私も、今年が初めてだから、まだ見たことはないんだけどね」
「はぁ……」

 上級生の熱弁を、彼女の熱量の半分以下で聞いていた浩志には、この花壇には、紫の小さな花が咲くかもしれないということしか解らなかったが、浩志にはそれで十分だった。

「でも、そうね。その花壇、ちょっと不思議かも」
「不思議?」
「だって、誰も手入れしていないのに、花が咲くのよ!」
「はあ……」
「きみには、草花の神秘さは分からないかぁ」

 上級生の言葉を、浩志は心底どうでもいいという顔で聞いていたら、上級生は、浩志のことを、残念な子供を見るような目付きで見て、軽く頭を振った。

 それから、これまで何も言葉を発していないせつなへと歩み寄ると、まるで何か意味を含んでいるような問いかけを、せつなに投げた。

「この花壇って、何か特別なんだと思うなぁ。ねぇ、あなたも、そう思わない?」