誰かがコツコツと階段を登って、展望エリアへやってきた。
ベンチに置いてあった荷物に手を掛けていた彼がその靴音に誘われるように視線を向ける。出勤途中らしいカジュアルスーツに身を包んだ女性が、Eastエリアからの階段をちょうど昇り終えたところだった。
先ほどまで初恋の子のことを考えていたからだろう。彼には、その女性があの子だとすぐにわかった。彼の初恋の少女はその面影を残しつつも、大人の女性へと成長していた。
展望エリアへ到達した彼女は、先客である彼には気づかず、眼下に広がる眺望に心を奪われているようだった。そんな彼女の挙動に、彼もまた心を奪われていた。やがて彼の視線に気づいた彼女が振り向き、二人の視線は重なった。
最初は彼の視線に怪訝そうに眉を潜めていた彼女だったが、やがて彼の中に昔の面影を見出したのか、自分を見つめてくる彼のことを彼女は目を丸くして見つめ返した。一瞬にして、二人の間の空気は学生時代のいつもの朝へと遡ったようだった。
二人は同時に口を開く。
それは、いつもと同じ言葉。けれどそれは、二人の新しい日常の扉を開く合言葉だった。
「「おはよう」」
完
**************************************
『スターチスを届けて』、全編完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
次作は、短編『櫻木紬のルーティーン』をお届けします。
ベンチに置いてあった荷物に手を掛けていた彼がその靴音に誘われるように視線を向ける。出勤途中らしいカジュアルスーツに身を包んだ女性が、Eastエリアからの階段をちょうど昇り終えたところだった。
先ほどまで初恋の子のことを考えていたからだろう。彼には、その女性があの子だとすぐにわかった。彼の初恋の少女はその面影を残しつつも、大人の女性へと成長していた。
展望エリアへ到達した彼女は、先客である彼には気づかず、眼下に広がる眺望に心を奪われているようだった。そんな彼女の挙動に、彼もまた心を奪われていた。やがて彼の視線に気づいた彼女が振り向き、二人の視線は重なった。
最初は彼の視線に怪訝そうに眉を潜めていた彼女だったが、やがて彼の中に昔の面影を見出したのか、自分を見つめてくる彼のことを彼女は目を丸くして見つめ返した。一瞬にして、二人の間の空気は学生時代のいつもの朝へと遡ったようだった。
二人は同時に口を開く。
それは、いつもと同じ言葉。けれどそれは、二人の新しい日常の扉を開く合言葉だった。
「「おはよう」」
完
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