「もうすぐって言ってもなぁ。もう少し暖かくなってからってことだろ。どう考えたって」

 せつなの言葉に浩志はため息を吐く。どうも、言動の子供っぽいせつなと接していると小さな苛つきを覚えるのだが、だからといって、一人放っておくこともできないような気がして、つい気にかけてしまう。

「なぁ。その花は、本当にここに咲くのか? 別の場所なんじゃないのか?」
「絶対、ここだもん。お姉ちゃんと一緒に、ここにタネ撒きしたもん」
「で、もうすぐ咲くのか?」
「うん」

 せつなは絶対と言い切るが、どう見てもまだ何もない。殺風景な花壇を見て、浩志は頭を掻く。探し物をしているのであれば手伝おうと思って声を掛けたのだが、花の芽吹きを待っていると言われては、浩志にはどうすることも出来ない。なす術の無い浩志は、せつなを残して帰ろうと立ち上がる。

 その時、背後から声を掛けられた。振り返ると、学校指定のジャージに軍手とジョウロを手にした女子生徒が、不思議そうにこちらの様子を伺っていた。着用しているジャージの色から、高等部の生徒だとわかる。

 彼らの学校は中高一貫校である。高等部の校舎が二棟、中等部の校舎が一棟。そして、それぞれを区切るようにして、浩志達が今いる中庭が作られていた。

「その花壇がどうかした?」
「あ……っと……いえ」

 突然の上級生の出現に浩志が慌てふためいていると、上級生は浩志の足元にいるせつなに目を留めた。

「あら、あなた……」

 上級生はせつなに対して何か言いたげに口を開いたが、結局、何も言わずに口を閉じる。そして、浩志へ視線を向けると優しげな笑みを浮かべ再び尋ねてきた。

「そこの花壇が気になるの?」

 浩志はせつなをチラリと見た。せつなは、上級生の存在など全く意に介さないかのように花壇を見続けている。せつなと話していても埒が明かないので、何か花についての手掛かりが掴めればと思い、浩志は口を開く。

「えっと……、先輩? は、ここの手入れをする人ですか?」

 上級生の格好からそうだろうという確信はあったが、念のために確認をしてみる。

「ええ。私、園芸部なの。ここの管理は私がしているけど?」
「あの、えっと……この花壇って、何か育ててます?」

 浩志はせつなが執着している花壇を指し上級生の答えを待つ。そんな浩志に上級生は楽しそうに眉尻を下げた。

「なになに? もしかして、園芸に興味あったりする? 何か育てたい感じ?」
「ああ、いえ、そうじゃなくて……」