「あれ? チャイティーじゃないの? 朝早くから活動していたなら、てっきりチャイを頼んでると思ったけど?」
「ああ。コーヒーにした。チャイを飲むなら、やっぱりあそこの公園が良いかなと思って」

 この店が優のお気に入りの場所であるように、浩志にもお気に入りの場所がある。ここから然程離れていないその場所のことは、もちろん優も知っている。その公園も、のんびりとするには最適の場所だった。

「じゃあ、あとで行く?」

 優は、ランチのサラダを手に取りながら聞く。

「う~ん。そうだな。時間があればな。今日は、何の打ち合わせだっけ?」
「式場の担当者と一緒に、参列者の座席確認。それから引出物の確認も。でも、誰かさんが予定よりも早起きだったから、時間は余裕よ」

 優の冗談めかした物言いに、苦笑しつつ浩志は頷いた。

「そうか。じゃあ、ちょっと寄っていこうかな」

 それからしばらくは、二人してランチに舌鼓を打つ。あっという間にランチを平らげると、ゆったりと食後のコーヒーを楽しんだ。

「ねぇ。そういえば、どうして外にいたの? 目が覚めたって言ってたけど、何か悪い夢でも見て寝付けなかったの?」

 優の何気ない言葉に、浩志はハッとしたように身を乗り出した。

「そうだっ! 聞いてくれよ!」

 それから浩志は、夢で見た少女のことと、先ほど思い出した昔の思い出を優に語って聞かせた。その間、優はポカンと口を開けて話を聞いていた。

「どうして忘れてたんだろう。せつなのこと……」

 語り終えた浩志は、机の上で手を握りしめ悔しそうな声を漏らす。そんな浩志の手を優は優しく包み込んだ。

「実は、私もせつなさんのこと忘れていたの。でもね……」

 浩志の手から自身の手を離し、優は鞄をごそごそと漁る。そして目的の物を取り出すと、そっと机の上に置いた。

「見て」
「これっ!」

 それは、押し花を綺麗にラミネート加工した二枚の栞だった。

「引っ越しの準備もあるから、昨日、部屋の片づけをしたの。そしたら、これが出てきて。私は、これを見てせつなさんのことを思い出したの」
「これって……あの時の……」
「そう。スターチスの花。せつなさんのことを忘れないようにって、押し花にしたのに、結局、浩志に渡す前に忘れちゃったみたい。ごめんね」

 申し訳なさそうに頭を下げる優を、浩志は制す。

「いや、いいんだ。俺だってすっかり忘れていたんだから。でも、どうして今になって、突然思い出したんだろう? しかも、二人揃って……」