一週間続いた学年末試験も、先ほど最後の教科を終えて、生徒たちは、勉強から解放されたことを喜び合うように、教室を出て行く。

 浩志は、いつものように、一人、窓際の一番後ろの席に座り、何をするでもなく、椅子をゆらゆらと揺らしている。

 テストの出来は(かんば)しくなかったが、まぁ、それはいつものことだし、進級できる程度には、点数が取れているはずだ。

 今日は、午前中のテストのみで、午後からは授業がないため、浩志は、これからの予定をぼんやりと考えていた。

 籍を置いているサッカー部には、もう随分と顔を出していないので、練習に参加するのは気まずい。しかし、帰ったところで、何もする事がないため、すぐに家に帰るのも、なんだかつまらなく感じた。

 何か暇つぶし出来ることはないだろうかと考えあぐね、何気なく天を仰ぐと、窓から入る冬の木漏れ日が、思いのほか綺麗だった。

 光につられて窓辺に立つと、窓の下に広がる中庭が視界に入る。

 相変わらず、茶色い土が剥き出しになったままの花壇。そして、相変わらずそこには、せつなの姿があった。

 しかし、今日のせつなは、殺風景な花壇を、しゃがみ込んでじっと見つめている。 その姿は、やはり何かを探しているようだった。

 浩志は、窓から離れると教室を後にした。

 中庭まで来ると、せつなは、先程見かけた姿勢のまま、まだそこに居た。

「やっぱり、何か探しているのか?」

 (おもむろ)に浩志はせつなに声をかけた。

 せつなは、チラリと浩志に視線を向けたが、その視線は、またすぐに花壇へと戻された。

「なんだぁ? 無視かよ? 傷付くなぁ」

 浩志はしゃがみ込むせつなの隣に立ち、花壇を眺める。しかし、そこには剝き出しの土があるばかりで、特に何があるということもなかった。

「なぁ。おまえ……じゃなかった、せつなは、いつもこんなところで何しているんだよ? 寒くないのか?」

 浩志は、両手をズボンのポケットに突っ込み、ブルっと身震いを一つする。

「……お花が咲くの、待ってるの」

 まるで、そのまま土に吸い込まれてしまいそうなほど、細く小さな声が足元から聞こえた。

「花? こんな時期に?」

 首を傾げつつ、浩志もせつなの隣にしゃがみ込む。地面に近くなったことで、湿った土の臭いが鼻を掠める。昨日雨が降ったからだろう。緩くなった土は、所々でこぼことしている。しかし、何かの芽が出ている様子はない。