ど、うして……こんなことになってしまったのだろう……。
息を呑み、目を見開く……。
目の前の光景を瞳がとらえるも理解には至らず、ただその場に立ちつくす……。
己に向かってじーっと、一心に向けられた焦点の定まらぬ濃い藍色の瞳……。
「……っ……」
何か言おうと微かに唇が動くも声が言葉となって紡がれることはなかった……。
床へと白衣の上に薄紫色の狩衣。浅葱色の袴を身に纏った人物ー青年がうつ伏せの状態で倒れ、その青年の腹部からは鮮やかな赤色が音もなく静かに畳の上へと広がり、己の足元をも染めようとしていた……。
それが血だと、気がついた瞬間……
「きゃ……きゃぁぁぁーー!!」
悲鳴をあげていたーー……。
「……う、きょ……う……?」
血の池にうつ伏せで倒れている右京の名前を口にする……。
その声は震えていて、喉の奥からやっとの思いで絞り出された声だったためにとても聞き取りづらい言葉となってしまった……。
……う、そ……。
そんな……。
「右京っ!!」
ピクリとも微動だしない右京の側にしゃがみ込もうとした瞬間……
「なりません」
「ーーっ!?」
落ち着いてはいるが、鋭い声が飛び、直接……「失礼」と、短く詫びの言葉を耳にしたかと思えば……ガシッ……と、前から両肩を掴まれた。
「……さ、きょ……う……」
「御身が汚れてしまいます」
いつの間にか己の側に来ていた、右京と同様白衣の上に薄紫色の狩衣、浅葱色の袴を身に纏った左京に両肩を掴まれたまま……数歩、右京から距離を取るべく、無理やり後ろへと促されてしまった……。
「なっ、何を……は、離してっ! う、右京が……!!」
すぐ側にいる左京に向かってキッと、睨みつけ、身動ぐ。
「離してっ! 離してよっ!!」
「なりません」
左京は先程口にした言葉を繰り返し、手を振り払われないように……両肩を掴む手に力を込めた。
その力の込めようは絶妙で己の身体を痛めるような力の込め方ではなく、かといって女性の力では容易く振りほどけないほどの力の込めようだった……。
「どうして……離してくれないのっ!? このままじゃ……右京が……!! 離してってば!!」
声を荒げながら必死で訴えるも……その訴えは聞き入ってもらえないばかりか、血溜まりの中にいる右京との距離をさらに取るべく、左京が後方へと下がるようにじんわり押す始末であった……。
「やめてよ、左京! なんで……どうして……」
邪魔立てをするのだろ……。
私は早く……一刻も早く、右京の元へと向かいたい……。
そして、手当てをしたい……。
そうすれば、まだ……。
ポロッ……。
二重の大きな漆黒の瞳から零れ落ちた|一雫……。
涙。
こうなってしまってはもう、止めることは出来ない……。
ポロッ……ポロッ……。
次から次へと絶え間なく涙が瞳から溢れては頬を伝って床へと零れ落ちた……。
「……巫女様……」
そーっと涙を拭うために差し出された左京の細く綺麗な指先が瞳に止まった途端……その手を勢いよく振り払った……。
パンッ!!
部屋に乾いた音が響き渡った……。
キッ……と、鋭い瞳で左京を睨みつけ
「そもそもどうして、こんなことをしたの……? どうして……右京をっ……」
このような状況になってしまったそもそもの要因を尋ねた。
左京は真っ直ぐに己を見つめ、躊躇うことなく、淡々と告げた。
「貴女様です」
ドクンッ!!
心の臓が強く打ちつけた……。
「無礼を承知の上で申し上げます」
左京の何処か様子の違う雰囲気にゴクッ……と、生唾を飲み込んだ……。
「貴女様がいけないのです」
「ーーっ!?」
今、なんと……。
何を言われたのだろうか……?
左京が紡いだ言葉の意味が咄嗟には分からず、ほんの一瞬……思考が止まってしまった……。
戸惑いを見せるも気に留めることはなく、淡々と左京は言葉を紡ぎ続けた。
「このような状況になってしまったのは、全て……貴女様のせいです」
「……わ、たしの……せい……?」
……それはどういうこと……?
左京の言葉の意味が全くもって分からない……。
困惑の色を濃くなっていくばかりだ……。
「巫女様……」
真剣な瞳が真っ直ぐに己を見つめ、問う。
「今日に至るまでの間……貴女様は己の責務を全うするために真剣に向き合ってこられましたか? 太陽の巫女様……」
左京の言葉にドキッ……と、した……。
少なからず、自分なりではあるが頑張ってきた。
けれど……自信を持って『はい』と、返事ができない自分がいるのも確かなことであったーー……。
息を呑み、目を見開く……。
目の前の光景を瞳がとらえるも理解には至らず、ただその場に立ちつくす……。
己に向かってじーっと、一心に向けられた焦点の定まらぬ濃い藍色の瞳……。
「……っ……」
何か言おうと微かに唇が動くも声が言葉となって紡がれることはなかった……。
床へと白衣の上に薄紫色の狩衣。浅葱色の袴を身に纏った人物ー青年がうつ伏せの状態で倒れ、その青年の腹部からは鮮やかな赤色が音もなく静かに畳の上へと広がり、己の足元をも染めようとしていた……。
それが血だと、気がついた瞬間……
「きゃ……きゃぁぁぁーー!!」
悲鳴をあげていたーー……。
「……う、きょ……う……?」
血の池にうつ伏せで倒れている右京の名前を口にする……。
その声は震えていて、喉の奥からやっとの思いで絞り出された声だったためにとても聞き取りづらい言葉となってしまった……。
……う、そ……。
そんな……。
「右京っ!!」
ピクリとも微動だしない右京の側にしゃがみ込もうとした瞬間……
「なりません」
「ーーっ!?」
落ち着いてはいるが、鋭い声が飛び、直接……「失礼」と、短く詫びの言葉を耳にしたかと思えば……ガシッ……と、前から両肩を掴まれた。
「……さ、きょ……う……」
「御身が汚れてしまいます」
いつの間にか己の側に来ていた、右京と同様白衣の上に薄紫色の狩衣、浅葱色の袴を身に纏った左京に両肩を掴まれたまま……数歩、右京から距離を取るべく、無理やり後ろへと促されてしまった……。
「なっ、何を……は、離してっ! う、右京が……!!」
すぐ側にいる左京に向かってキッと、睨みつけ、身動ぐ。
「離してっ! 離してよっ!!」
「なりません」
左京は先程口にした言葉を繰り返し、手を振り払われないように……両肩を掴む手に力を込めた。
その力の込めようは絶妙で己の身体を痛めるような力の込め方ではなく、かといって女性の力では容易く振りほどけないほどの力の込めようだった……。
「どうして……離してくれないのっ!? このままじゃ……右京が……!! 離してってば!!」
声を荒げながら必死で訴えるも……その訴えは聞き入ってもらえないばかりか、血溜まりの中にいる右京との距離をさらに取るべく、左京が後方へと下がるようにじんわり押す始末であった……。
「やめてよ、左京! なんで……どうして……」
邪魔立てをするのだろ……。
私は早く……一刻も早く、右京の元へと向かいたい……。
そして、手当てをしたい……。
そうすれば、まだ……。
ポロッ……。
二重の大きな漆黒の瞳から零れ落ちた|一雫……。
涙。
こうなってしまってはもう、止めることは出来ない……。
ポロッ……ポロッ……。
次から次へと絶え間なく涙が瞳から溢れては頬を伝って床へと零れ落ちた……。
「……巫女様……」
そーっと涙を拭うために差し出された左京の細く綺麗な指先が瞳に止まった途端……その手を勢いよく振り払った……。
パンッ!!
部屋に乾いた音が響き渡った……。
キッ……と、鋭い瞳で左京を睨みつけ
「そもそもどうして、こんなことをしたの……? どうして……右京をっ……」
このような状況になってしまったそもそもの要因を尋ねた。
左京は真っ直ぐに己を見つめ、躊躇うことなく、淡々と告げた。
「貴女様です」
ドクンッ!!
心の臓が強く打ちつけた……。
「無礼を承知の上で申し上げます」
左京の何処か様子の違う雰囲気にゴクッ……と、生唾を飲み込んだ……。
「貴女様がいけないのです」
「ーーっ!?」
今、なんと……。
何を言われたのだろうか……?
左京が紡いだ言葉の意味が咄嗟には分からず、ほんの一瞬……思考が止まってしまった……。
戸惑いを見せるも気に留めることはなく、淡々と左京は言葉を紡ぎ続けた。
「このような状況になってしまったのは、全て……貴女様のせいです」
「……わ、たしの……せい……?」
……それはどういうこと……?
左京の言葉の意味が全くもって分からない……。
困惑の色を濃くなっていくばかりだ……。
「巫女様……」
真剣な瞳が真っ直ぐに己を見つめ、問う。
「今日に至るまでの間……貴女様は己の責務を全うするために真剣に向き合ってこられましたか? 太陽の巫女様……」
左京の言葉にドキッ……と、した……。
少なからず、自分なりではあるが頑張ってきた。
けれど……自信を持って『はい』と、返事ができない自分がいるのも確かなことであったーー……。