■暦2000年、初冬。
景軸市在住の御園マリカ女史は昨年死去した夫ヒビトの遺品から一本のカセットテープを発見した。ラベルに記された内容は以下となる。
「1996年 ユキノと黒い家」
当該テープについては雉矢ユキノ嬢の肉声を録音したものであるとの確認が取れた。
ユキノは1996年から1998年までの間夫妻宅に下宿していた非常に優秀な女子学生で、某与党の職員の娘である。確実に身元の保証された人物である事をここに記さねばならない。
-----------------------------
(以下、書き起こし)
潤土で会った怪物の話ですか。
……あの災害が起きてから、よく言われます。
「故郷があんな事になって、さぞかし悲しいでしょう?」って。
けれどわたしは5年になる前に転校しましたし、その頃には友人といえる相手もいなくなっておりましたから、悲しいと思った事は一度もないのです。潤土のことはむしろ嫌いでした。
ご存知の通りの陰鬱な地です。
つまらない港なんです。
海水浴で行く海は透き通るエメラルドの色ですが、潤土の海は暗い紺色。しかもコンクリートのブロックにべたべたとした白い泡がこびりついて、魚の腐った匂いがしていました。船出の開放感なんて微塵もありません。
少し大きい川。大きい濠。
風がなまぬるくて、まとわりつくようだったのをよく覚えています。
爽やかさというものは一切ありません。
住み良い場所ではなかったと思います。
しかし潤土という地名は例の災害によって消えない傷となりました。「潤土出身者」としてのレッテルはわたしの人生の影法師の如く、延々とついてくる事になるのでしょうね。未来に至るまで、故郷によって汚されてゆくような気分です。
──故郷の話も怪物の話もすすんでしたくはないのですが、先生からの頼みであれば否とは言いません。
あの頃。閉ざされた地において幼い鬱憤は日に日に募り、その発露が大人への抵抗になったのだという気がします。
当時仲良くしており「黒い家」をともに訪ねた仲間も同様でした。別の地域から引越してきて潤土の風土に馴染めずにいた子ばかりで。虐められていたというわけではないんですが、どことなく爪弾き気味で、ほかの子とは話が合わなかったのです。
……わたしといつも一緒にいた2人の男子、そしてあまり仲の良くない女子が1人。学級で有名な悪童のグループでした。
授業中に立ち歩いたり、禁止されていた買い食いをしたり……、今思えばそこまでの不良という訳でもなく、どこにでもいるようなかわいいものですけれどもね。
あの家に行こうと言い始めたのがだれだったかについての記憶はありませんし、だれであっても変わりないでしょう。しかし動機だけははっきりと記憶しています。何か親が怒って、同級生からは度胸があると思われるような事をしたかった。──顧みてみれば、実にあさはかで愚かな事です。
家の由来については全く知りませんでした。立ち入り禁止の廃墟だとだけ知っていました。後で聞いた話によれば、戦中に気の変になった女性が住んでいたそうです。
ああ。
本当に不気味な家でした。
家が近づくほど気分が悪くなってきて……。しかも、何だかにおいましたよ、あの周辺は。例えるなら。そう。腐った魚の脂に泥と花を混ぜた匂いです。
壁は白いペンキがほとんど剥げて、ほとんど黒。そして扉の横には妙な文字が書いていました。
(ペンを走らせる音)
……神道系の神様の名前だと思います、多分。
読みはよくわからないから想像なんですが。
しかし入るな危険と書いてあるわけでもあるまいし、私達は張り紙を見ても躊躇はしませんでした。
扉には鍵がかかっていました。
だから回り込んで、割れた窓から家に入ったのです。
今思えば不法侵入ですね。
一緒に来ていた女子が馬鹿みたいなフリルのついた白いスカートを履いてきていたから、かなり手間取りましたっけ。
内装を見ると、その部屋は噂通りに女の人が住んでいたもののようでした。
何故わかったかって?
鏡台があったんですよ。
その上足元には真っ赤な晴れ着が広げられていました。女装趣味があるとかでもなければ、住んでいたのは女の人でしょう?
でも、おかしいですよね。
普通ならあの手の豪奢な服は黴が生えないように箪笥とかに入れるでしょう。
廊下に出ると、間取りもどこか変でした。晴れ着の部屋は玄関の一番近くで、その隣に黒ずんだお手洗い、浴室がありました。更に奥には狭くて急な階段があって……。
階段の横の壁にはまたボロボロの張り紙がありました。
『上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。』
だんだん行の傾いていく同じ文章がいくつも。
字はボールペンで書いたものをより太くするために、何重にもして書いてありました。
まともな人の筆跡ではありませんでした。
その字を見ていると、急に寒気がし始めました。
もしかしたら2階に頭のおかしい変質者か何かがいて、気づいて襲いかかってくるんじゃないかと思ったんです。
みんなに引き返すことを提案すると、すぐに同意してもらえました。こわいですもんね。
家に入った証拠だと言って男の子の1人が汚いノートを浴室から持ってきていて、……空っぽの浴槽の底にあったそうです。何故そんな場所にあったのかはわからないのですが、きっと家主のものだったのでしょう。この間お渡ししたノートがそれです。
家を出ようとした時の事でした。
ふと鏡を見て、黒いものが写っている事に気がつきました。同時に古いモーターみたいな音を聞き、わたしは振り返りました。
その黒いものは──黒い柱でした。
虫が空中にたくさん集まっているような塊です。少し揺れながらその場にとどまっていました。目を凝らしたとき、一緒に来ていた女が悲鳴をあげました。その声に男の子達も振り返って、わたし達と同じものを見て──。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「雉矢さん、済まない。水道の水が漏れているようだ。見てくるよ」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「…………あれ? 違うのか。何の音だろう?」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「先生。それ、魚の跳ねる音かも。あの時もそうでした。真っ赤な晴れ着の中に、水もないのに魚が泳ぎ始めて……」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「だから話すの嫌だなぁって言ったのに。……あの時のことを人に話すと、いっつもこうなるんだから。ああもう! ……でも先生、お貸ししたノートを読んだときにも、そういう事ってあったんじゃないですか?」
「……」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「………………黒い柱を見たせいで、一緒に来ていた男の子の1人が死にました。それ以来わたし達は仲良くしなくなりましたし、あの田舎ではますます孤立しました。その事件について、潤土出身だった父方の祖父の言っていた事があります」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「あの柱は……ヒムジノミコトは大人だけを呪う。もう少し大人だったら、あの家に入った男の子の誰も無事には済まなかっただろう。……って」
「……」
「──結局あの天災で、健康な働き手と言われる年代の男は皆死にました。黒い竜巻に巻き込まれてみんな死に、魚の雨が降ったと聞いています。生き残ったのは性機能が未熟な少年、性的不能者、性機能の低下した老人、そして女」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「死んだ子は学年の誰よりもおとなびていました。つまり……。いいえ、そこまで詳しく話す事はありませんね。わたしは彼の事が好きでした」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「竜巻なんて絶対に嘘。わたしはあの天災があの家で見た黒い柱によるものだと考えています」
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なお、ユキノが幼少期を過ごした潤土村は1992年の竜巻により廃村となっている。
景軸市在住の御園マリカ女史は昨年死去した夫ヒビトの遺品から一本のカセットテープを発見した。ラベルに記された内容は以下となる。
「1996年 ユキノと黒い家」
当該テープについては雉矢ユキノ嬢の肉声を録音したものであるとの確認が取れた。
ユキノは1996年から1998年までの間夫妻宅に下宿していた非常に優秀な女子学生で、某与党の職員の娘である。確実に身元の保証された人物である事をここに記さねばならない。
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(以下、書き起こし)
潤土で会った怪物の話ですか。
……あの災害が起きてから、よく言われます。
「故郷があんな事になって、さぞかし悲しいでしょう?」って。
けれどわたしは5年になる前に転校しましたし、その頃には友人といえる相手もいなくなっておりましたから、悲しいと思った事は一度もないのです。潤土のことはむしろ嫌いでした。
ご存知の通りの陰鬱な地です。
つまらない港なんです。
海水浴で行く海は透き通るエメラルドの色ですが、潤土の海は暗い紺色。しかもコンクリートのブロックにべたべたとした白い泡がこびりついて、魚の腐った匂いがしていました。船出の開放感なんて微塵もありません。
少し大きい川。大きい濠。
風がなまぬるくて、まとわりつくようだったのをよく覚えています。
爽やかさというものは一切ありません。
住み良い場所ではなかったと思います。
しかし潤土という地名は例の災害によって消えない傷となりました。「潤土出身者」としてのレッテルはわたしの人生の影法師の如く、延々とついてくる事になるのでしょうね。未来に至るまで、故郷によって汚されてゆくような気分です。
──故郷の話も怪物の話もすすんでしたくはないのですが、先生からの頼みであれば否とは言いません。
あの頃。閉ざされた地において幼い鬱憤は日に日に募り、その発露が大人への抵抗になったのだという気がします。
当時仲良くしており「黒い家」をともに訪ねた仲間も同様でした。別の地域から引越してきて潤土の風土に馴染めずにいた子ばかりで。虐められていたというわけではないんですが、どことなく爪弾き気味で、ほかの子とは話が合わなかったのです。
……わたしといつも一緒にいた2人の男子、そしてあまり仲の良くない女子が1人。学級で有名な悪童のグループでした。
授業中に立ち歩いたり、禁止されていた買い食いをしたり……、今思えばそこまでの不良という訳でもなく、どこにでもいるようなかわいいものですけれどもね。
あの家に行こうと言い始めたのがだれだったかについての記憶はありませんし、だれであっても変わりないでしょう。しかし動機だけははっきりと記憶しています。何か親が怒って、同級生からは度胸があると思われるような事をしたかった。──顧みてみれば、実にあさはかで愚かな事です。
家の由来については全く知りませんでした。立ち入り禁止の廃墟だとだけ知っていました。後で聞いた話によれば、戦中に気の変になった女性が住んでいたそうです。
ああ。
本当に不気味な家でした。
家が近づくほど気分が悪くなってきて……。しかも、何だかにおいましたよ、あの周辺は。例えるなら。そう。腐った魚の脂に泥と花を混ぜた匂いです。
壁は白いペンキがほとんど剥げて、ほとんど黒。そして扉の横には妙な文字が書いていました。
(ペンを走らせる音)
……神道系の神様の名前だと思います、多分。
読みはよくわからないから想像なんですが。
しかし入るな危険と書いてあるわけでもあるまいし、私達は張り紙を見ても躊躇はしませんでした。
扉には鍵がかかっていました。
だから回り込んで、割れた窓から家に入ったのです。
今思えば不法侵入ですね。
一緒に来ていた女子が馬鹿みたいなフリルのついた白いスカートを履いてきていたから、かなり手間取りましたっけ。
内装を見ると、その部屋は噂通りに女の人が住んでいたもののようでした。
何故わかったかって?
鏡台があったんですよ。
その上足元には真っ赤な晴れ着が広げられていました。女装趣味があるとかでもなければ、住んでいたのは女の人でしょう?
でも、おかしいですよね。
普通ならあの手の豪奢な服は黴が生えないように箪笥とかに入れるでしょう。
廊下に出ると、間取りもどこか変でした。晴れ着の部屋は玄関の一番近くで、その隣に黒ずんだお手洗い、浴室がありました。更に奥には狭くて急な階段があって……。
階段の横の壁にはまたボロボロの張り紙がありました。
『上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。
上に上がってはならない。』
だんだん行の傾いていく同じ文章がいくつも。
字はボールペンで書いたものをより太くするために、何重にもして書いてありました。
まともな人の筆跡ではありませんでした。
その字を見ていると、急に寒気がし始めました。
もしかしたら2階に頭のおかしい変質者か何かがいて、気づいて襲いかかってくるんじゃないかと思ったんです。
みんなに引き返すことを提案すると、すぐに同意してもらえました。こわいですもんね。
家に入った証拠だと言って男の子の1人が汚いノートを浴室から持ってきていて、……空っぽの浴槽の底にあったそうです。何故そんな場所にあったのかはわからないのですが、きっと家主のものだったのでしょう。この間お渡ししたノートがそれです。
家を出ようとした時の事でした。
ふと鏡を見て、黒いものが写っている事に気がつきました。同時に古いモーターみたいな音を聞き、わたしは振り返りました。
その黒いものは──黒い柱でした。
虫が空中にたくさん集まっているような塊です。少し揺れながらその場にとどまっていました。目を凝らしたとき、一緒に来ていた女が悲鳴をあげました。その声に男の子達も振り返って、わたし達と同じものを見て──。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「雉矢さん、済まない。水道の水が漏れているようだ。見てくるよ」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「…………あれ? 違うのか。何の音だろう?」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「先生。それ、魚の跳ねる音かも。あの時もそうでした。真っ赤な晴れ着の中に、水もないのに魚が泳ぎ始めて……」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「だから話すの嫌だなぁって言ったのに。……あの時のことを人に話すと、いっつもこうなるんだから。ああもう! ……でも先生、お貸ししたノートを読んだときにも、そういう事ってあったんじゃないですか?」
「……」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「………………黒い柱を見たせいで、一緒に来ていた男の子の1人が死にました。それ以来わたし達は仲良くしなくなりましたし、あの田舎ではますます孤立しました。その事件について、潤土出身だった父方の祖父の言っていた事があります」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「あの柱は……ヒムジノミコトは大人だけを呪う。もう少し大人だったら、あの家に入った男の子の誰も無事には済まなかっただろう。……って」
「……」
「──結局あの天災で、健康な働き手と言われる年代の男は皆死にました。黒い竜巻に巻き込まれてみんな死に、魚の雨が降ったと聞いています。生き残ったのは性機能が未熟な少年、性的不能者、性機能の低下した老人、そして女」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
「死んだ子は学年の誰よりもおとなびていました。つまり……。いいえ、そこまで詳しく話す事はありませんね。わたしは彼の事が好きでした」
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
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ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……、ぴちゃ……。
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「竜巻なんて絶対に嘘。わたしはあの天災があの家で見た黒い柱によるものだと考えています」
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なお、ユキノが幼少期を過ごした潤土村は1992年の竜巻により廃村となっている。