ここでゆうはハッとする。
 あの日、神社にいたヒトはみな噛まれおおかみになったか、食い殺されてしまっている。祭りのことを覚えているヒトは、ゆうとお父さんとお母さん、沙羅とおじいちゃんだけのはずだ。

「私、お祭りが始まるほんとすぐ前に、おなか痛くなっちゃってトイレに行ってたの。そしたら、本殿はもう閉まってるし、変なヒトたちがいっぱいいるしで入れなくて。仕方ないから外で待ってたら……」
「おおかみが本殿からあふれた……」
「うん。だから私、またトイレに駆け込んで、必死にドアを押さえたんだよ」

 みかは真っ青だ……あの日のことを思い出しているようだ。

「ばきばき、くちゃくちゃ。おおかみがヒトを食べる音がずっと、ずうっとして、怖くて怖くて。何時間かして、ドアを開けると、おおかみは居なくなっていたの。でも……」

 涙を浮かべて、ゆうの目を見た。

「パパもママも居なくて……たくさんの血があちこちに飛び散ってて。それでこの毛を、見つけたの」