その後、三人が向かったのは祖父・磯五郎が住む家。養子縁組が成功したと話せば泣いて喜んでくれた。後ろでは抱きしめ合う楓達を嬉しそうに見つめる鬼の親子。磯五郎は酒吞童子に気づけば声をかけた。
「久しぶりだな、酒吞」
「久しぶりだね~あれから何年ぶり~?」
懐かしむように話し始めた二人を、楓達は離れた場所から見守る。
「弥一」
「ん~?」
「あの、さっきはありがと…」
目を合わせようにも恥ずかしくて下を向いてしまう。そんな楓に、弥一はふっと笑えば頭を撫でた。
「い~え~、楓ちゃんが傷ついているのは見てられないんデ」
胡散臭い笑みにも見えるけど、彼にとってそれは本心なのだろう。
「ふふ、オッサンの余裕って奴?」
「オッサン言うな。俺はお兄さんだ」
少し揶揄うもノリよく合わせてくれる。
「でも私は貴方と結婚なんてしないからね?」
「おいおい…折角の雰囲気が台無しじゃねーか」
やれやれとした目を向ける弥一。
「おじいちゃん達みたいに契約だけすればいいじゃん」
「そうもいかねーよ。なんせ隠世では酒吞家の次期正妻を狙う輩でうじゃうじゃしてる」
弥一は酒吞童子の息子。
当然、未来の当主として隠世を統治するわけだが、婚約者どころか結婚さえする気配がない。お陰で他の家から花嫁候補が後を絶たないらしい。
「ま、人助けだと思ってサ。お前のことは信用してんだ」
「…胡散臭さ」
「なんでだよ笑」
弥一は苦笑いするも再び楓の頭を撫でた。


「俺が高校生のフリまでしてあの学校に通ってる理由。なぜか分かるか?」
暫くすれば弥一がそう聞いてくるので、確かに何でだろうと楓は考える。
「ある噂を耳にした」
「噂?」
楓は不思議そうに聞き返す。
「今までは父親の会社を手伝いつつ、実地調査もしていた。だが聞くところによると、魔物を悪用した裏組織の連中が複数この街に潜んでるって話だ」
「悪用するって、何に?」
「八咫烏狩りだよ」
「!」
弥一が話す内容に楓は驚いた。
「八咫烏は昔から人間界でも導きの神をして有名だ。そんな八咫烏から産まれた一族は、国家転覆を目論む奴らからしたら格好の餌食。中でも魔物を識別する異能持ちなら尚のこと」
「それって…」
そんな楓に弥一は頷く。
「ようはお前、危険な状況だってことだ。今まで無事だったのは周りに合わせていたから。でも烏本家の人間としてまず目はつけられていた。それはお前の姉貴達も同じだ」
お姉ちゃんや美玲が⁈
楓は衝撃が止まらなかった。
「だがお前達の中で魔物に反応したのはお前だけ。彼女達に八咫烏の血は作用してないとこみると安全ではある。調べて分かったが、F公園での一件には奴らが絡んでいた」
「狙って仕掛けられた犯行だったってこと?」
「奴らは人間とは少し違い魔物を使役する。昨日の件でお前が魔物を倒せることを知られた。現に高校には、お前を狙う敵のスパイが紛れ込んでいる」
「そんな…」
驚きが隠せなかった。
まさか知らないところでそんな恐ろしいことが起こっていたなんて。
「お前のことは八咫烏を通じて知っていた。同じクラスになったのはお前を監視するため。まあ魔物を足蹴りで退治するのは予想外だったけどな!」
弥一はぎゃははと笑い出す。
腹が立った楓は、その腹に渾身の一発を入れてやる。すると向こうは倒れて動かなくなってしまう。
「…お前は俺を殺す気か」
「お望みならそうしますが?」
「未来の旦那になんてことを!!」
「私はあんたの妻じゃねえ!」
コントみたいなことをしていれば酒吞童子達が帰ってくる。
「ごめん待ったかい?お、その様子じゃ話は聞いたようだね」
「酒吞さん!私、狙われてるって本当ですか⁈」
「そ~怖いよね~でも大丈夫!そこは君の旦那である弥一君が守ってくれるから!」
そんな悠長な、、
軽いノリの酒吞さんといい、楓は少し心配だった。
「楓、心配するな。なんならワシと訓練でもするか?」
「訓練?」
「護身術じゃよ。退魔術には及ばんが、こなせば自己防衛ぐらいには強くなれる」
「やる!」
護身術の言葉でウキウキした目をおじいちゃんに向ければ、隣からは「もう十分やべーよ」と弥一の声。聞かなかったことにしておく。
「なら僕からも~」
酒吞童子が目の前に手をかざせば、煙の中から現れたのは二人の女の子。綺麗に切り揃えられたおかっぱ頭に黒い着物を着れば、一人は赤い花柄、もう一人は青い花柄だった。
「これって…」
「座敷わらしさ」
「座敷わらし??」
「何年か前にこっちで見つけたんだ。行き場を探していた途中みたいだったから式神にしちゃった」
座敷わらしを式神って…流石は酒吞童子。
彼女達はジッと楓を見れば服を掴む。
「ワタシ、この人好き」
「好き」
そう言うとわらわらと楓に群がり始める。
「気に入ったようだね~その子達は楓ちゃんにあげるよ~」
「ですが私に式神なんて」
「心配いらない。基本は勝手に出たり消えたりしてるし、元は力ある妖だから」
酒吞童子が話せば、座敷わらし達はシュパッと消えてしまった。と思ったら、向こうのお店を窓から除いている。確かに自由な子達だ、、、
「じゃあ弥一君、高校の件はそっちに任せるよ。八咫烏狩り主催者は桃源郷(とうげんきょう)って言うみたいだから。二人も十分気をつけるように」
桃源郷ね~
なんか胡散臭い名前だこと。
楓は明日から始まる高校生活が憂鬱に感じるのだった。