次の日、楓は昨日まで来てた制服からオシャレな服に着替えさせられれば、二人の乗る車へと乗り込んだ。
「ねえ弥一、本気でやるの?お父さんは頑固だよ?」
「関係ない。お前が手に入るならリスクは惜しまないさ」
堂々とした弥一の態度に隣からは「さっすが僕の息子~」と酒吞童子がときめいている。本当に大丈夫なんだろうか。
「今日はその姿のままなんだね」
「仕事の時はこうだ。逆にあれは高校にいる時にしか使わない。普段は俺も酒吞財閥で働いているからな」
弥一は高校生だけでなく、昼は会社で夜は鬼灯で働いているらしい。何とも忙しい人だな。
「それ体壊れない?大丈夫?」
「なになに~心配してくれてんの?弥一さん嬉し」
「もうふざけないでよ」
心配してるのにニヤニヤ笑う姿がムカつく。
「弥一様、楓様は本気で心配しておられるのですよ」
ドライバー席からは、酒吞童子の秘書・鬼代紅楊が困ったように声をかけた。
鬼代家は代々に渡って酒吞家に仕える鬼族で、酒吞家からの信頼度は高い。彼もまた主人の側で仕事をこなす有能秘書。そのスマートぶりには酒吞童子も頭が上がらないよう。
「楓様が契約して下さり助かりました。でなければ弥一様は仕事の手を止めませんから」
「そんなにですか⁈」
「童子様とは違って真面目過ぎますからね」
弥一を見れば、向こうはそっぽを向いている。
「ちょっと紅楊~僕は不真面目だって言いたいの~?」
「デートのしすぎです。人間の女性は妖とは違うのですから。その気にさせて問題を起こさないか、私はそれだけが心配なのです」
溜息をつく鬼代。
彼もこの親子には手を焼いてるようだ。
暫くして車は大きな高層ビルの前で止まる。先に出た弥一が手を差し伸べてくれるので、楓はその手を取って車内から出る。
「ほんじゃやることやってさっさと帰るよ~」
「父さんは楽観的すぎだっての。もっと日本のトップらしく威厳の一つを持て」
「え~そう言うのは僕の趣味じゃな~い」
呑気な酒吞童子に続くようにして二人も後に続く。
「な、なんだお前達は!!」
中では突然の訪問に驚いた警備兵が一斉に警備体制をとる。
「酒吞財閥からの所用だ。取り急ぎ、八咫烏会長への謁見を申し出たい」
「酒吞財閥だと??」
前に出る紅楊の発言に、周りからはSPが出てくれば警備兵達を抑え込む。
「童子様、今です」
紅楊の合図で、酒吞は「行くよ~」と声をかけ歩いて行く。酒吞財閥会長の訪問には社員もソワソワした視線を送っている。やはりそれだけ影響力は高いようだ。
△▼△
「た、大変です!ただいま酒吞財閥の関係者がこちらへ向かっていると連絡が」
「なんだと⁈」
上では知らせを受け取った楓の父・八咫烏晃大が目を丸くした。
「どうもどうも~邪魔するよ~」
「な、なんだ貴様ら!無礼だぞ!」
酒吞童子達が入ってくれば晃大は怒りの眼差しを向ける。だがその集団の中に楓の姿を見つければたちまち血相を変えた。
「楓!お前はまた!これは何の真似だ」
「ご、誤解よ、お父さん!これは…」
「黙れ!昨日から家にも帰らず今までどこで何をしていた⁈井崎は今回のでウチとの契約を無効にすると言ってきた。全部お前のせいだぞ!」
晃大は顔を真っ赤にして楓を𠮟りつけた。怖くて震えてしまう。だが不意に伸びてきた腕に引っ張られれば、弥一が抱きしめてくれた。
「静粛に。童子様の前ですよ」
「うっ、、」
冷たい視線を送る紅楊に晃大は身じろぐ。
「まあまあ、急に押し掛けたのはこっちだ。それはそうと紅楊」
酒吞童子が呼べば、紅楊は「はい」と言って何やら書類を取り出す。
「今回は楓様の養子縁組の件でお伺い致しました。並びに、酒吞財閥ではご子息である酒吞弥一様との婚約を承諾してもらいたく」
「養子縁組に…婚約だと??」
晃大はこれに強く反応した。
「ウチの息子が楓ちゃんに一目惚れしてね~。是非とも貰い受けたいと思い直々に足を運んでみた訳だが。そっちはどうかな?」
「ふざけるな。例え酒吞財閥とはいえ、ウチの娘を連れて行くことは許さん」
「ウチの娘ね~あれだけの扱いしときながら、今それ言うのは身勝手じゃな~い?」
酒吞童子が煽り文句を言えば、晃大は「なんだと!」と怒りに震えていた。
「楓ちゃんの為にも。今後のお世話は八咫烏磯五郎に任せようと思ってね。大人しくそれ、サインして?」
「親父にだと??」
その名前に晃大は怒りのまま立ち上がる。
「ふざけるな!娘を奴の養子なんかにしてたまるか!私はサインなどしない」
「少なくとも君の元に置いとくよりは良い生活を送れると思うけど。磯五郎には承諾済みだ」
「!!!」
酒吞童子が目配せすれば、紅楊は紙を指差し署名しろと再度促す。
「楓、お前はどうなんだ!!」
だが署名はする気などないらしい。
怒りの矛先は弥一の元にいた楓へと向けられた。
「私…私は」
楓は言葉に詰まる。
怖くて声が出ない。
するとふわりと肩に乗せられた手。見上げれば弥一が優しく微笑んでいた。
「私は…おじいちゃんの子になる。日々注がれ続けた苦しい言葉も、家での辛い生活ももうウンザリなの!」
「この親不孝ものが!!!」
晃大は激怒すれば楓に向かって手を振り上げた。
ぶたれる!!!
咄嗟に目をつぶったが衝撃はこない。
見れば自分を庇うようにして弥一が晃大の腕を掴んでいた。
「俺のもんに手を出すな、このクソ野郎」
「ぐあっ!!」
ギリギリと腕を握り潰さんばかりの力には、流石の晃大も悲鳴を上げていた。弥一が手を離せば後ろに後ずさる父親に、緊張の糸が解けて倒れそうになる。すかさず弥一が抱き留めてくれた。
初めてだった。
誰かに守って貰う日がくるだなんて。
信じていいのだろうか。
楓は未だ冷たい視線を父親へ向け続ける弥一に、少し気持ちが揺さぶられた。
「もう一度言う、その誓約書にサインしろ。八咫烏楓の身は我ら酒吞財閥が引き取る。今日をもって貴様らとの関係は終わりだ」
「…クソ」
晃大は悔しそうにするも、ペンを持てば書類へとサインする。一通り確認し終えた紅楊が「終わりました」と声をかければ、酒吞童子も笑って部屋を出ようとする。
「…酒吞、こんなことして、ただで済むと思うなよ」
そう言葉をこぼす晃大は酒吞童子を睨みつける。
「あっは~ウチが君たち相手に負けるとでも?悪いけど、勝手な真似しようもんなら…消しちゃうよ?」
冷たく放たれた声。
楓からはその顔を見れなかったが、父親が酷く怯え切っている姿だけは見えた。
「な~んて、冗談冗談!ならこれで僕らは失礼するよ~」
酒吞童子を先頭に、楓は弥一に支えられれば会長室を後にした。
「ねえ弥一、本気でやるの?お父さんは頑固だよ?」
「関係ない。お前が手に入るならリスクは惜しまないさ」
堂々とした弥一の態度に隣からは「さっすが僕の息子~」と酒吞童子がときめいている。本当に大丈夫なんだろうか。
「今日はその姿のままなんだね」
「仕事の時はこうだ。逆にあれは高校にいる時にしか使わない。普段は俺も酒吞財閥で働いているからな」
弥一は高校生だけでなく、昼は会社で夜は鬼灯で働いているらしい。何とも忙しい人だな。
「それ体壊れない?大丈夫?」
「なになに~心配してくれてんの?弥一さん嬉し」
「もうふざけないでよ」
心配してるのにニヤニヤ笑う姿がムカつく。
「弥一様、楓様は本気で心配しておられるのですよ」
ドライバー席からは、酒吞童子の秘書・鬼代紅楊が困ったように声をかけた。
鬼代家は代々に渡って酒吞家に仕える鬼族で、酒吞家からの信頼度は高い。彼もまた主人の側で仕事をこなす有能秘書。そのスマートぶりには酒吞童子も頭が上がらないよう。
「楓様が契約して下さり助かりました。でなければ弥一様は仕事の手を止めませんから」
「そんなにですか⁈」
「童子様とは違って真面目過ぎますからね」
弥一を見れば、向こうはそっぽを向いている。
「ちょっと紅楊~僕は不真面目だって言いたいの~?」
「デートのしすぎです。人間の女性は妖とは違うのですから。その気にさせて問題を起こさないか、私はそれだけが心配なのです」
溜息をつく鬼代。
彼もこの親子には手を焼いてるようだ。
暫くして車は大きな高層ビルの前で止まる。先に出た弥一が手を差し伸べてくれるので、楓はその手を取って車内から出る。
「ほんじゃやることやってさっさと帰るよ~」
「父さんは楽観的すぎだっての。もっと日本のトップらしく威厳の一つを持て」
「え~そう言うのは僕の趣味じゃな~い」
呑気な酒吞童子に続くようにして二人も後に続く。
「な、なんだお前達は!!」
中では突然の訪問に驚いた警備兵が一斉に警備体制をとる。
「酒吞財閥からの所用だ。取り急ぎ、八咫烏会長への謁見を申し出たい」
「酒吞財閥だと??」
前に出る紅楊の発言に、周りからはSPが出てくれば警備兵達を抑え込む。
「童子様、今です」
紅楊の合図で、酒吞は「行くよ~」と声をかけ歩いて行く。酒吞財閥会長の訪問には社員もソワソワした視線を送っている。やはりそれだけ影響力は高いようだ。
△▼△
「た、大変です!ただいま酒吞財閥の関係者がこちらへ向かっていると連絡が」
「なんだと⁈」
上では知らせを受け取った楓の父・八咫烏晃大が目を丸くした。
「どうもどうも~邪魔するよ~」
「な、なんだ貴様ら!無礼だぞ!」
酒吞童子達が入ってくれば晃大は怒りの眼差しを向ける。だがその集団の中に楓の姿を見つければたちまち血相を変えた。
「楓!お前はまた!これは何の真似だ」
「ご、誤解よ、お父さん!これは…」
「黙れ!昨日から家にも帰らず今までどこで何をしていた⁈井崎は今回のでウチとの契約を無効にすると言ってきた。全部お前のせいだぞ!」
晃大は顔を真っ赤にして楓を𠮟りつけた。怖くて震えてしまう。だが不意に伸びてきた腕に引っ張られれば、弥一が抱きしめてくれた。
「静粛に。童子様の前ですよ」
「うっ、、」
冷たい視線を送る紅楊に晃大は身じろぐ。
「まあまあ、急に押し掛けたのはこっちだ。それはそうと紅楊」
酒吞童子が呼べば、紅楊は「はい」と言って何やら書類を取り出す。
「今回は楓様の養子縁組の件でお伺い致しました。並びに、酒吞財閥ではご子息である酒吞弥一様との婚約を承諾してもらいたく」
「養子縁組に…婚約だと??」
晃大はこれに強く反応した。
「ウチの息子が楓ちゃんに一目惚れしてね~。是非とも貰い受けたいと思い直々に足を運んでみた訳だが。そっちはどうかな?」
「ふざけるな。例え酒吞財閥とはいえ、ウチの娘を連れて行くことは許さん」
「ウチの娘ね~あれだけの扱いしときながら、今それ言うのは身勝手じゃな~い?」
酒吞童子が煽り文句を言えば、晃大は「なんだと!」と怒りに震えていた。
「楓ちゃんの為にも。今後のお世話は八咫烏磯五郎に任せようと思ってね。大人しくそれ、サインして?」
「親父にだと??」
その名前に晃大は怒りのまま立ち上がる。
「ふざけるな!娘を奴の養子なんかにしてたまるか!私はサインなどしない」
「少なくとも君の元に置いとくよりは良い生活を送れると思うけど。磯五郎には承諾済みだ」
「!!!」
酒吞童子が目配せすれば、紅楊は紙を指差し署名しろと再度促す。
「楓、お前はどうなんだ!!」
だが署名はする気などないらしい。
怒りの矛先は弥一の元にいた楓へと向けられた。
「私…私は」
楓は言葉に詰まる。
怖くて声が出ない。
するとふわりと肩に乗せられた手。見上げれば弥一が優しく微笑んでいた。
「私は…おじいちゃんの子になる。日々注がれ続けた苦しい言葉も、家での辛い生活ももうウンザリなの!」
「この親不孝ものが!!!」
晃大は激怒すれば楓に向かって手を振り上げた。
ぶたれる!!!
咄嗟に目をつぶったが衝撃はこない。
見れば自分を庇うようにして弥一が晃大の腕を掴んでいた。
「俺のもんに手を出すな、このクソ野郎」
「ぐあっ!!」
ギリギリと腕を握り潰さんばかりの力には、流石の晃大も悲鳴を上げていた。弥一が手を離せば後ろに後ずさる父親に、緊張の糸が解けて倒れそうになる。すかさず弥一が抱き留めてくれた。
初めてだった。
誰かに守って貰う日がくるだなんて。
信じていいのだろうか。
楓は未だ冷たい視線を父親へ向け続ける弥一に、少し気持ちが揺さぶられた。
「もう一度言う、その誓約書にサインしろ。八咫烏楓の身は我ら酒吞財閥が引き取る。今日をもって貴様らとの関係は終わりだ」
「…クソ」
晃大は悔しそうにするも、ペンを持てば書類へとサインする。一通り確認し終えた紅楊が「終わりました」と声をかければ、酒吞童子も笑って部屋を出ようとする。
「…酒吞、こんなことして、ただで済むと思うなよ」
そう言葉をこぼす晃大は酒吞童子を睨みつける。
「あっは~ウチが君たち相手に負けるとでも?悪いけど、勝手な真似しようもんなら…消しちゃうよ?」
冷たく放たれた声。
楓からはその顔を見れなかったが、父親が酷く怯え切っている姿だけは見えた。
「な~んて、冗談冗談!ならこれで僕らは失礼するよ~」
酒吞童子を先頭に、楓は弥一に支えられれば会長室を後にした。