その帰り道でのこと。
人通りの少ない夜の道をトボトボと歩く。
「すっかり暗くなっちゃった」
夜は危険。
何故なら魔物が姿を現す時間だから。
それは国でも古くから言い伝えられている話だ。昼間は神様の活動し、夜は神様がお休みになる。すると悪いエネルギーに導かれて魔物が異界から姿を現すとされている。
楓には生まれつき、妖というものが見えた。そんな楓を嫌がる両親。だが祖父だけは同じく妖が見えることから、それはそれは楓を可愛がってくれた。そして決して目を合わせてはならないと教えるのだった。
チラリと横手に見える公園。
楓は何気なく足を公園へと運べば、街灯が灯るベンチに腰掛ける。
「はぁ、やっぱおじいちゃん家に泊まれば良かった」
グダグダと不満をこぼせば自然と溜息が出る。
両親からの連絡は来ていない。
やはり何処までも興味は姉にしかないのだと思い知らされた。
ーーーーコロコロ~
「……ん?」
不意に前方から転がってきたのはサッカーボール。
なんでサッカーボール?と不思議に思うも、遠くでは男の子が一人、こっちに向かって手を振っていた。
もしやこれを蹴り返せと?
楓がサッカーボールを蹴り返せば、ボールは綺麗な直線ラインを描き転がっていく。だが楓はここでふと違和感を覚えた。
待って、、さっきまで私しかいなかったよね??
冷や汗をかけば、ゆっくりした動作で男の子に視線を向ける。するとサッカーボールなんてものはなく、男の子がニタニタと笑っていた。
ーーーーミタ
「!」
男の子の体にはみるみる黒い靄が立ち込め、その姿は魔物に変貌していく。
ーーーーミタ、ミタ、、アアアア!!!
「ッ、まずい!!」
楓は全力でその場から走り出した。
もっとも恐れていた事態が起こった。
魔物を相手にしてしまったことで目をつけられてしまったのだ。広い公園を横断しようとするも、後ろからは物凄い勢いで魔物が追いかけてくる。
「わあ!!」
石に躓けば、その場に倒れ込んでしまう。
後ろからは魔物は笑いながら距離を詰めてくる。
どうしよ、どうしよ!!
自分にはおじいちゃんのような退魔術なんて使えない。かと言ってここで殺されるのは…
「もう嫌…なんでこうも運が悪いの」
考えれば自分は何も可笑しくない。
妖が見えるのだって、力が強いのだって生まれもった個性だ。それを彼らは気味が悪い出来損ないだと罵る。
「でもこれだけは言わせてよ」
ーーーーミタ~~~!!!
「空手だけは誰にも負けないんだよ!!」
ーーーーギャ!?!
楓はもうどうにでもなれと、襲い掛かる魔物へ足を振り上げれば、そのまま怒りをダイレクトに強い足蹴りを喰らわせた。これには魔物もギャっと言って動きを止める。
「見えるからってなんだよ!私は役立たず?そんなの誰が決めたんだっつーの!」
そう叫んで続けだまに回し蹴りをお見舞いする。
魔物は苦しそうに唸れば、消えてなくなってしまった。
「あ、ありゃ??き、消えた??」
「へ~見事なもんだな」
「!!!」
突如聞こえてきた声に、驚いて視線を上げれば誰もいない。
「だ、誰⁇」
暗闇の中からは声は聞こえるも姿は見えない。だが近づいてくる気配に段々とその容姿が明らかになっていく。
「お前、あれ見えるの??」
黒い髪に宿した赤い瞳。
服は軍服のような物を着用し、腰にかかるのは一つの刀剣。
「あ、あれ??」
「魔物だよ。今倒しただろ?」
「あ、まあ…」
「見える奴らには会った事あるけどよ。足で蹴って魔物退治した奴なんざ初めて見たわ」
向こうは興味深そうにこっちを見てくる。
てかこの人、どこか見覚えが。
「ま、いいや。そんで本題なんだけど。楓ちゃんさ、俺と結婚してくれない?」
「…は??」
まさかの告白?
初対面相手に告白してくる奴ってこの世にいたんだ。楓はちょっとひいてしまう。
「新手のナンパなら間に合ってます」
「いやちげーよ。マジで俺本気だから」
「…いや、いやいやいや可笑しすぎでしょう。てかそもそも何で私の名前…まさかストーカーじゃ、、」
楓はこの胡散臭い顔した男を本気で警戒すれば、技の体勢に入る。
「え、おいおい待て待て!!ちょっと落ち着…っ」
「クソ…かすった」
攻撃を入れれば中々にいい避け方をする。
向こうは焦りに焦っていた。
「いやちょっと待て!少し落ち着けって!会話の順番ミスって先走ったのは謝る。だからそんな攻撃してくん…ヒッ」
「警察に突き出されるか、ここで私に潰されるか。どちらかお好きな方を選んで下さい」
「え、何この子…怖いんですケド」
男は慌てて電柱に抱き着くと、こちらを恐ろし気に見下ろしている。楓より頭一つ分、身長はあるであろうそんな大男が、こんな夜の時間、しかも公園の電柱に抱きつく姿なんて地獄絵図でしかない。
「落ち着け。なんで俺が楓ちゃんの名前知っているのか?それは俺がお前と同じクラスメイトだからだ」
「クラスメイト?でもこんなオッサンはいなかったよ?」
「オッサ、、ひでぇ…俺まだ十七よ?」
「十七にしては老けすぎでしょ」
「それは妖の姿してるからだっつーの!!てか老けてねぇからな⁈人間の時は若さ意識してんの!」
妖??
何を言ってるんだこの人…と楓は首を傾げた。
「そんなに疑うなら見せてやるよ」
男は上から降りてくれば楓の元までやってくる。すると男の体を煙が取り巻き、次の瞬間には見覚えのある人物の姿に。
「鬼嶋君⁈」
それは楓のクラスメイトである鬼嶋君だった。人当たりのいい彼はクラスでも目立つし、自分なんて一生関わらないと思っていた。
「こっちじゃコレの姿じゃないと困るからな。俺は鬼だ」
「鬼?」
すると鬼嶋君はさっきの姿に戻る。
「ほれ、角があんだろ」
チョンチョンと指さす頭には、確かに角のようなものが。
「そんでさっきの話なんだけど、俺と結婚してくんね?」
「いや、意味が分からないって。第一私、今日彼氏に裏切られて婚約破棄までされてるの」
「彼氏って井崎のガキのこと?」
「知ってたの?」
「知ってるも何も。お前、あの八咫烏一族の者だろ?」
確かに八咫烏は楓の苗字。
おじいちゃんの苗字も八咫烏であるが、父は縁を切った後も八咫烏の苗字は変えなかったのでそのままだ。
「八咫烏家のこと知ってたんだ。もしかして井崎グループとの兼ね合いで?」
「いや、それは表の話だろう?俺が言ってんのは八咫烏一族の方」
「どういう意味??」
「さっき魔物を倒しただろ。本来なら魔物を見える奴なんて人間界に早々いない。ましてや俺ら『鬼灯』の使う刀剣を使いでもしなきゃ討伐はまず不可能。なのにお前は倒した。しかも蹴り一つでだ。普通にヤバイだろ」
そう言われれば…なんでだろう。
魔物なんて倒したこともなかったから不思議で堪らない。
「八咫烏の異能だとしたら話は早い。今は時間もないからついて来い」
「いや私…帰らなきゃ」
流石に大人しくはい着いてきますなんて、さっきの今でできるわけもない。
よく考えたらこの人…鬼だし。
「別に取って喰うなんてことしねーよ。ただ異界には来てもらうがね」
「異界?異界って魔物が出てくる?」
「まあな。因みに魔物が人間界に出てくるのを退治・討伐する部隊ってのが隠世では大いに権力を振るっていてね。その最高権力者こそが、全妖の頂点にして最強の酒呑童子率いる、魔物殲滅部隊・鬼灯だ」
「鬼灯…じゃあ鬼嶋君は」
楓が恐る恐る顔をあげて聞けば、彼はニヤリと笑った。
「俺は奴の一人息子、名を酒呑弥一と言う」
「酒吞弥一?鬼嶋君じゃなくて?」
ますます意味が分からない。
だが不意に手を掴まれれば、気づいた時、自分は知らない場所に飛んでいた。
「ようこそ、酒呑童子の館へ」
人通りの少ない夜の道をトボトボと歩く。
「すっかり暗くなっちゃった」
夜は危険。
何故なら魔物が姿を現す時間だから。
それは国でも古くから言い伝えられている話だ。昼間は神様の活動し、夜は神様がお休みになる。すると悪いエネルギーに導かれて魔物が異界から姿を現すとされている。
楓には生まれつき、妖というものが見えた。そんな楓を嫌がる両親。だが祖父だけは同じく妖が見えることから、それはそれは楓を可愛がってくれた。そして決して目を合わせてはならないと教えるのだった。
チラリと横手に見える公園。
楓は何気なく足を公園へと運べば、街灯が灯るベンチに腰掛ける。
「はぁ、やっぱおじいちゃん家に泊まれば良かった」
グダグダと不満をこぼせば自然と溜息が出る。
両親からの連絡は来ていない。
やはり何処までも興味は姉にしかないのだと思い知らされた。
ーーーーコロコロ~
「……ん?」
不意に前方から転がってきたのはサッカーボール。
なんでサッカーボール?と不思議に思うも、遠くでは男の子が一人、こっちに向かって手を振っていた。
もしやこれを蹴り返せと?
楓がサッカーボールを蹴り返せば、ボールは綺麗な直線ラインを描き転がっていく。だが楓はここでふと違和感を覚えた。
待って、、さっきまで私しかいなかったよね??
冷や汗をかけば、ゆっくりした動作で男の子に視線を向ける。するとサッカーボールなんてものはなく、男の子がニタニタと笑っていた。
ーーーーミタ
「!」
男の子の体にはみるみる黒い靄が立ち込め、その姿は魔物に変貌していく。
ーーーーミタ、ミタ、、アアアア!!!
「ッ、まずい!!」
楓は全力でその場から走り出した。
もっとも恐れていた事態が起こった。
魔物を相手にしてしまったことで目をつけられてしまったのだ。広い公園を横断しようとするも、後ろからは物凄い勢いで魔物が追いかけてくる。
「わあ!!」
石に躓けば、その場に倒れ込んでしまう。
後ろからは魔物は笑いながら距離を詰めてくる。
どうしよ、どうしよ!!
自分にはおじいちゃんのような退魔術なんて使えない。かと言ってここで殺されるのは…
「もう嫌…なんでこうも運が悪いの」
考えれば自分は何も可笑しくない。
妖が見えるのだって、力が強いのだって生まれもった個性だ。それを彼らは気味が悪い出来損ないだと罵る。
「でもこれだけは言わせてよ」
ーーーーミタ~~~!!!
「空手だけは誰にも負けないんだよ!!」
ーーーーギャ!?!
楓はもうどうにでもなれと、襲い掛かる魔物へ足を振り上げれば、そのまま怒りをダイレクトに強い足蹴りを喰らわせた。これには魔物もギャっと言って動きを止める。
「見えるからってなんだよ!私は役立たず?そんなの誰が決めたんだっつーの!」
そう叫んで続けだまに回し蹴りをお見舞いする。
魔物は苦しそうに唸れば、消えてなくなってしまった。
「あ、ありゃ??き、消えた??」
「へ~見事なもんだな」
「!!!」
突如聞こえてきた声に、驚いて視線を上げれば誰もいない。
「だ、誰⁇」
暗闇の中からは声は聞こえるも姿は見えない。だが近づいてくる気配に段々とその容姿が明らかになっていく。
「お前、あれ見えるの??」
黒い髪に宿した赤い瞳。
服は軍服のような物を着用し、腰にかかるのは一つの刀剣。
「あ、あれ??」
「魔物だよ。今倒しただろ?」
「あ、まあ…」
「見える奴らには会った事あるけどよ。足で蹴って魔物退治した奴なんざ初めて見たわ」
向こうは興味深そうにこっちを見てくる。
てかこの人、どこか見覚えが。
「ま、いいや。そんで本題なんだけど。楓ちゃんさ、俺と結婚してくれない?」
「…は??」
まさかの告白?
初対面相手に告白してくる奴ってこの世にいたんだ。楓はちょっとひいてしまう。
「新手のナンパなら間に合ってます」
「いやちげーよ。マジで俺本気だから」
「…いや、いやいやいや可笑しすぎでしょう。てかそもそも何で私の名前…まさかストーカーじゃ、、」
楓はこの胡散臭い顔した男を本気で警戒すれば、技の体勢に入る。
「え、おいおい待て待て!!ちょっと落ち着…っ」
「クソ…かすった」
攻撃を入れれば中々にいい避け方をする。
向こうは焦りに焦っていた。
「いやちょっと待て!少し落ち着けって!会話の順番ミスって先走ったのは謝る。だからそんな攻撃してくん…ヒッ」
「警察に突き出されるか、ここで私に潰されるか。どちらかお好きな方を選んで下さい」
「え、何この子…怖いんですケド」
男は慌てて電柱に抱き着くと、こちらを恐ろし気に見下ろしている。楓より頭一つ分、身長はあるであろうそんな大男が、こんな夜の時間、しかも公園の電柱に抱きつく姿なんて地獄絵図でしかない。
「落ち着け。なんで俺が楓ちゃんの名前知っているのか?それは俺がお前と同じクラスメイトだからだ」
「クラスメイト?でもこんなオッサンはいなかったよ?」
「オッサ、、ひでぇ…俺まだ十七よ?」
「十七にしては老けすぎでしょ」
「それは妖の姿してるからだっつーの!!てか老けてねぇからな⁈人間の時は若さ意識してんの!」
妖??
何を言ってるんだこの人…と楓は首を傾げた。
「そんなに疑うなら見せてやるよ」
男は上から降りてくれば楓の元までやってくる。すると男の体を煙が取り巻き、次の瞬間には見覚えのある人物の姿に。
「鬼嶋君⁈」
それは楓のクラスメイトである鬼嶋君だった。人当たりのいい彼はクラスでも目立つし、自分なんて一生関わらないと思っていた。
「こっちじゃコレの姿じゃないと困るからな。俺は鬼だ」
「鬼?」
すると鬼嶋君はさっきの姿に戻る。
「ほれ、角があんだろ」
チョンチョンと指さす頭には、確かに角のようなものが。
「そんでさっきの話なんだけど、俺と結婚してくんね?」
「いや、意味が分からないって。第一私、今日彼氏に裏切られて婚約破棄までされてるの」
「彼氏って井崎のガキのこと?」
「知ってたの?」
「知ってるも何も。お前、あの八咫烏一族の者だろ?」
確かに八咫烏は楓の苗字。
おじいちゃんの苗字も八咫烏であるが、父は縁を切った後も八咫烏の苗字は変えなかったのでそのままだ。
「八咫烏家のこと知ってたんだ。もしかして井崎グループとの兼ね合いで?」
「いや、それは表の話だろう?俺が言ってんのは八咫烏一族の方」
「どういう意味??」
「さっき魔物を倒しただろ。本来なら魔物を見える奴なんて人間界に早々いない。ましてや俺ら『鬼灯』の使う刀剣を使いでもしなきゃ討伐はまず不可能。なのにお前は倒した。しかも蹴り一つでだ。普通にヤバイだろ」
そう言われれば…なんでだろう。
魔物なんて倒したこともなかったから不思議で堪らない。
「八咫烏の異能だとしたら話は早い。今は時間もないからついて来い」
「いや私…帰らなきゃ」
流石に大人しくはい着いてきますなんて、さっきの今でできるわけもない。
よく考えたらこの人…鬼だし。
「別に取って喰うなんてことしねーよ。ただ異界には来てもらうがね」
「異界?異界って魔物が出てくる?」
「まあな。因みに魔物が人間界に出てくるのを退治・討伐する部隊ってのが隠世では大いに権力を振るっていてね。その最高権力者こそが、全妖の頂点にして最強の酒呑童子率いる、魔物殲滅部隊・鬼灯だ」
「鬼灯…じゃあ鬼嶋君は」
楓が恐る恐る顔をあげて聞けば、彼はニヤリと笑った。
「俺は奴の一人息子、名を酒呑弥一と言う」
「酒吞弥一?鬼嶋君じゃなくて?」
ますます意味が分からない。
だが不意に手を掴まれれば、気づいた時、自分は知らない場所に飛んでいた。
「ようこそ、酒呑童子の館へ」



