その夜、楓が夕飯のため下に行くと酒吞童子達が待っていた。
「いや~磯ちゃんの結界を破壊か~。楓ちゃんも怖かったね~」
「まあ…でも烏達がいましたから」
楓の近くでは座敷わらし達がじーっと何かを観察している。どうやらお盆に乗った小豆羊羹が狙いのよう。近くに置いてやれば「バンザ~イ」と喜んでいた。
「弥一君~?いつまでそんな怖い顔してんの~」
入ってくるなり暗い顔をする弥一。
「俺がもっと早くに着いてれば…」
今回の件でだいぶ自分を責めているようだ。酒吞童子も深い溜息をつく。
「…確かに烏の本家に敵を侵入させるだなんて、本来ならまずあってはならない。しかも今回は八咫烏が来るのを知っての試みだった。内溶には事前調査が含まれていたとみていい」
その言葉に弥一は目を見開いた。
結界の破壊に予期せぬ楓達到着後の奇襲。偶然起こったにしては何か妙だ。
「…狙った犯行であると?」
「結果的にはね~。しかも直前まで知らなかった事を相手は順応した」
「もしや桃源郷の内通者が既に…」
楓の行動を直ぐ近くで見張っている。弥一は顔を強張らせた。
「まあ何はともあれ楓ちゃんは無事なんだ。楓ちゃんが好きで心配するのは分かるけど。勝負はここからだよ~」
「え、す…好き??」
酒吞童子の言葉に楓はビックリする。
「あれ、知らなかったのかい?弥一は昔から楓ちゃんのことが好きで将来は絶対俺のお嫁さんに~なんて考えてたんだよ」
「えええ!!」
吞気に語る酒吞童子に対し、弥一は顔を赤くした。
「おい!それは言わねぇ約束だろ!」
「え~散々良家のお見合い相手蹴散らしといてよく言うよ~。楓ちゃんが好きなら正々堂々男らしく当たって砕けなさい。パパを見習って!」
「ッ、この酔っ払いが!」
見れば酒吞童子はだいぶ酔っている。弥一を見れば向こうはバツが悪そうな顔をする。
「あ~まあ、、そういう事だ。騙してて悪かった」
「あ、いや…」
恥ずかしくて顔を見れない。
言うだけ言って酒吞童子は寝ていた。
「俺はずっと結婚なんてしないと思ってた。でも数年前、初めて行った烏本家でお前を見た時、堪らなくお前に恋した自分がいた」
「そんな昔から⁈」
「覚えてはいないだろうが、話したこともあったぞ?」
噓、、全然記憶にない。
なら父が縁を切るより前の話だろうか。あれ以来、祖父の家とは暫し疎遠になったから。
「楓、俺はお前が好きだ。会った時からずっと。井崎と婚約したと聞いて無性に腹も立った。だが俺は妖、人間であるお前を思えば何度も諦めかけた。でもあんな姿のお前を見て、どうしても諦めたくなくなったんだ」
「弥一…」
「だからオジョーサンさえよければ、俺にチャンスをくれないか?」
血のように赤い瞳に見つめられ羞恥心を抱く。でもどんな形であれ、真正面から告白された事が純粋に嬉しかった。そしてそんな彼を楓も愛おしいと思った。
「うん。私も、弥一が好き」
「!!じゃあ、」
「契約しよう。結婚はまだ分からないけど…でも私もちゃんと弥一と向き合いたい」
そんな楓の反応に、弥一はとても嬉しそうだった。
「なら決まりだな」
その瞬間、二人の間には八咫烏の契約が結ばれた。