字七に飲まされた媚薬が頭をよぎり、伸ばした手がぴた、と止まった。旦那さまの機嫌をうかがうと、いつもと変わりない。
恐る恐る湯呑を口元に近づけて、匂いを嗅ぐが、あの媚薬のようなやたらと甘ったるい匂いはしないかった。

「これを飲むと寝れなくなるぞ」
「……っ、そのための気付け薬なのでしょう」
「そうだな」

 覚悟を決めて一息で飲み干す。
 味はいまいちだった。顔をしかめるほど苦いわけでもなく、匂いほど甘くもない。

「うまいか」
「……は、はい」

 笑い声が聞こえた。馬鹿にされていると感じたが、文兵衛は穏やかに笑っているだけだった。

「顔に出ているぞ。美味くない、ってな」