「心配です……」

古里では邪気除けに香を焚く風習など無かった。否、のけ者にされていた僕が知らぬだけの可能性はあるが――。

「まあ、お前も気付けの薬湯を飲め。今晩は寝ることができないからな」
「ぼ、僕も寝ずの番ですか?」
「知らずに起きてたのか」
「……っ」

 また、ボンヤリしていると怒られる。覚悟して背中を丸めた。が、文兵衛は怒りもせず軽口を続けた。

「お前が寝ている横で、俺だけが夜を明かさなくてはならんのか? そんなこった無いだろう。まあまあ、いいから付き合え」

 土瓶で煮だされた煎じ薬を手元に注がれる。赤茶の湯からぶわり、と湯気に乗って甘くぴりりとした薬草の香りが立ちのぼる。