「大丈夫、です」
「行くな!」

 覚束ない足取りで部屋を出ようとした背中を、文兵衛が強く引き留めた。

「このまま寝ると、風邪をひく」

 こめかみに伝った汗を、親指でそっとぬぐわれる。背中も、掌も、湿り気を帯びていた。
これ以上近くにいると本当におかしくなってしまいそうだ。

「だ、旦那さま」
「もしかして、……触れたこともないのか」

 視線が下に向けられる。

「や、やめてください」
「硬くなったまま寝ると、身体によくない。鎮めてやろう」
「し、しり、しりません」
「大丈夫だ。誰にも言わない」
「……ご、ごめんなさい」
「謝ることはない」
「ごめんなさい」