頭をのろのろ上げると、彩度の低い瞳が静かに自分を見つめていた。

「大丈夫か」

 こくりとうなずく。が、頭が揺れたはずみに視界がぐわりと歪み、口元を押さえて吐き気をこらえた。
 文兵衛のまつげがしばたたく。長くつやのある毛は微かに潤んでいるようだ。

「身体はつらくないか」

 ためらいつつ、もう一度ゆっくりうなずいた。形のよい唇がゆがむ。

「虚勢を張るな」
「……違います。本当に、大丈夫、です。ごめんなさい」

 文兵衛の腕を払おうにも力が入らない。手をかけるので精いっぱいだった。顔がひどく火照っている。