「呼ばれてるぞ」
「はいっ!」

 文兵衛が手招いていた。慌てて飛んでいくと、新たなる命令が下される。

「暫くしたら、カネさまとノブさまがいらっしゃる。顔は分かるよな」

 カネさまは、打ち身の薬をもらいに来る小柄なおばあさん。鳶の職人さんのためによく訪れる。ノブさまは……確か、えーと。

「ノ、ノブさま、が」
「医師の奥様だ。生薬を買いに来られる。二日に一ぺんは見るだろう?」
「も、申し訳ありません」
「俺は少し、番頭と話がある。お二人が来たら頼むぞ」
「ははいっ‼」

 奥の帳場へ文兵衛は早足で向かう。混み合う店先に残された僕は心もとなさに、ひとりで身震いをした。