どこにも逃げたりしない、と思ってもらえたのだろう。やっと文兵衛は若旦那として仕事する姿を僕へ見せるようになった。
 ただ、文兵衛に対してちょっとした気まずささがあった。字七に肩を抱かれたことを旦那さまに伝えられずに、はや三日が経とうとしていた。
 昼下がりの店頭で、文兵衛は穏やかに笑みを浮かべる。お客さまも美しい表情につられて頬が緩む。春の陽気のような笑みの連鎖を見守るのは、とても好きだ。
 上手にできているかどうかは分からないけれども僕も微笑んでみる。
 顔のあざが目立たない角度で文兵衛のそばに立ち続けていた。

「お加減はいかがですか?」