手をぐいと引き寄せられ、文兵衛の横に並んだ。ぼやっとしていた僕の手首をきつく握る指はとても冷たかった。

「どうかお客さま、ウチの者をよろしくお願いいたします。新人ゆえに至らぬ箇所も多々あるかと存じ上げますが……ほら、頭下げな。よろしくお願いします、って」

小声で叱りつけられ、慌てて頭を下げた。視界に入るのは自分の影が落ちる足元だけである。

「ご迷惑おかけしますっ」
「はは」

手を握ったまま、文兵衛は朗らかな笑い声をあげた。そうしてお得意さまは満足げに店を後にした。

「シロネ」

結んだ手をほどかれる。

「言われたとおりにも、できないのか?」