腕の中に抱き起こされた。いつもの強引さは鳴りを潜めておどろくほど優しい。

「触れてもかまわぬのか?」

 ぽんぽん、と背中をたたかれ「もちろんです」と鼻声でうなずく。肩口に顔を埋めたら、文兵衛の鼓動が聞こえた。
 額を合わせると体温が上がる。鼻先をかすめる薫香に、心の臓が大きな音を立てた。野良猫に向けるよりも、今まで向けられてきたどんな視線よりも温かくいとおしいものが包み込む。
 引き寄せられ、唇を重ねた。
 二、三度ついばむように口づけたあと、顔のあざに温かい唇を添わせられる。

「ん、ん……っ、文、さま、だめ、です」