見捨てられたと思ったのに、死んでしまったかと思ったのに、文兵衛は静かに横にいた。心の臓はトクトクと小さく音を立てている。

「夢の中で、何度も旦那さまを見ました」
「そうか」
「あなたは、僕の役立たずさに、何度も呆れて、見放して、何十回も離縁を言い渡しておりました」
「離縁は一度でいいだろう」

 顔を見合わせ苦笑いする。紅い瞳に西日が差し込むと、南天の赤い実のように鮮やかな色彩で光った。つやりとした質感がいっそう潤み、まばたきをぱちぱちと繰り返した。

「お前が好きだ」

 シロネ。と、まっすぐな視線で告白される。

 驚きと嬉しさが胸にじわりと広がる。