頬にひんやりとした手が触れた。文兵衛の指先だ。すべらかな指が僕の輪郭をつつ、と辿って離れる。

「……どうして、止めてしまわれるのですか」
「なんだ、起きていたのか」

 ぱち、と視線が合う。瞳は凪いだ海のような光を孕んでいた。とたんにほっとして、夢とうつつの境界が明瞭になる。
そうだ。自分は体調を崩し、情けないことに床に伏し、数日が経って――。

「熱は下がったみたいだな」

 文兵衛に迷惑をかけた。
 寝間を橙色の夕日が染めている。いつもの屋敷だ。目をこすり、旦那さまの顔をじっと見つめた。