馬がふすふすと鼻息をたてる。父はシワまみれの手で茶色い鼻梁を撫でた。人懐っこく尻尾が揺れる。

「シロネはここで待ってなさい。……あなた、ええと」
「字七と申します」
「シロネが乗っていた馬を貸していただけないだろうか」

 籠を背負いなおし、父はきっぱりとした口調で字七に頼み込んだ。字七もそれなら、と言った様子で支度をはじめる。

「まっ……」

 僕には勇気が必要だった。他人からしたら些細なことでも、自分にとっては途轍もなく難しい一歩だ。

「ま、待ってください。僕が、やります」

 覚悟を決めて拳を強く握りしめた。

「教えてください、お父さん。僕の旦那さまを救う方法を」