字七が松明を片手に先陣を切る。後ろに続くシロネは、乗りなれない馬の扱いに四苦八苦していた。

「独りで! こんな峠を君はたった独りで越えるといっていたんだぞ!」

 字七が半身になって振り返る。強い風に袖がばたばたとはためいた。

「しかも、歩いてだと! 無茶だ‼」
「そ、そうですね……道具を貸してもらったところじゃ太刀打ちできそうになかったです」
「だろう? おら、右手に岩だ、気をつけろ」
「ひいいっ」
「俺のほうが怖いさ。真夜中に峠越えだなんて正気じゃない。帰ったら邪気払いだな」

 甲高い悲鳴を上げても、よく訓練された馬は難なく障害物をよけてみせた。