からかうような笑みが瞼の裏に浮かぶ。他に向けてほしくない。もう一度笑いあいたい。
 生家に戻ることは二度とないと思っていた。が、ここで父のもとへ南天健寿堂の者が行き、事態を解決したら――。僕がここに居る意味が、今度こそ本当になくなる。
 正解はひとつしかなかった。顔を上げて字七に頼み込むことがらは、思い返せば結婚した日から決まっていたのかもしれない。