最初はツルッとしたボディがかっこよくて触りたかっただけだった。

兄貴の部屋に置いてあったそれをいつも羨ましく眺めていたら、兄貴が家を出るとき譲ってくれた。嬉しかった。

弦に触れると思ったより低い音が鈍く鳴って脳を揺らした。

他の弦も鳴らしてみたら、低い音が低いまま動いた。それが面白かった。

気がつくと、どんな曲を聴いてもベースの音を探す自分がいた。

そしていつの間にか、どんな曲でもベースの音が一番大きく聞こえるようになっていた。

その頃にはもうすっかりベースの、バンドの虜だった。

このあたりの時期から、なるほど記憶が鮮明に残っている。
大事な思い出は当然覚えている。

でも、あまりにどうでもいい記憶の方が、何かのきっかけでぼろぼろと思い出されたりする。